今から8年前の2016年5月10日のこと。
とある”文書”の公開で、新潟を始め日本中、そして世界中が騒然となりました。
その文書とは『パナマ文書(Panama Papers)』です。

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が作成したタックスヘイブン・租税回避(課税が完全に免除されたり、軽減されたりする)行為を記したとする機密文書です。

1970年代から作成され、世界の企業や個人がタックス・ヘイブンを利用して租税回避やマネーロンダリングをしている実態を記したとされていて、2016年5月に情報漏えいをきっかけに公表されました。各国の一流企業の経営者や要人、著名人らも含まれていて、アイスランドの首相が辞任に追い込まれるなど、世界中が騒然としました。

リストに日本関連 約400件の企業・個人

リストは、世界20万社以上の法人と、それに関連する個人約37万人の情報を元に、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が国別に分類してまとめ、全世界一斉に公開しました。このうち、日本関係では、企業や個人約400件の情報がリストに乗りました。
インターネット通販大手・楽天の三木谷浩史会長兼社長(当時)もその一人…。
租税回避地のある法人の株主になっているとされました。
これに対し三木谷氏は、「パーティーか友人の紹介で知り合った外国人から投資を持ちかけられ、80万円程度を出したが一部しか戻ってこなかった」と説明。
「租税回避の認識はなく、全くやましいところはない」と話しました。

新潟県関係の情報は3件 “関係者”を直撃すると…

当時公開された日本関係の約400件のうち、新潟県関係として3件の個人名や住所も掲載されていました。

英文のサイトを検索します。
まず「新潟」を「NIIGATA」と検索してもヒットしません。そこで「I」を一つ抜いて「NIGATA」と検索すると、3件の個人名と住所などの情報が現れました。

そのうち、住所が実在した2件の取材に向かいました。

1件目には、「個人名」と「新潟市西区浦山2丁目〇-〇」という住所が記されていました。この住所に行ってみると…その場所には、マンションが建っていました。

リストに掲載された苗字と同じ部屋を訪ねると、この時は不在でしたが、その後、連絡が取れました。住んでいたのは、医師の男性でした。

男性は「租税回避」などの行為を全面的に否定したうえで、パナマ文書に掲載されたことについて「私の名前とともに台湾の医療機器メーカーの社名が掲載されている。その台湾のメーカーには20年以上前に見学に行った事がある」と語りました。

新潟県関係の2件目は「上越市頸城区〇〇〇」という住所にあるとされる「とある企業」です。

その住所にも行ってみましたが、それらしい建物は存在しませんでした。
住所と共に記載されていて「企業名」を調べると、“出会い系サイト”を運営する企業名と一致しました。

さらに問い合わせ先の電話番号を調べたところ、なんと、電話の先はルーマニアだということがわかりました。その番号に電話したところ、「こういう形で名前がでたということは、逆にこちらとしてもよくわからない状態です」と答えました。

8年前の文書公表後 リストに載った約400件の日本関連企業・個人は?

2016年に公表された“パナマ文書”には、日本関連では約400の個人名や企業名が掲載されていました。このうち、国税庁の調査や自主的な修正申告などで約40億円の申告漏れが判明しましたが、リストに載った約400件のごく一部で、新潟県関係で掲載された3件を含め、大半は「租税回避」とは無関係だったとみられています。

文書を追及した記者が殺害 きっかけの法律事務所も営業停止

一方、『パナマ文書』について先駆けて取材していたマルタのダフネ・カルアナガリチア記者が2017年、車を運転中に仕掛けられた爆弾により殺害される事件も起きています。
カルアナガリチア記者は、マルタの当時の首相 ジョゼフ・ムスカット氏の不正資金疑惑を追及していたとされていました。その後ムスカット氏の側近とつながりがあるとされる地元実業家らが逮捕されましたが、真相は今もまだ明らかになっていません。

『パナマ文書』はそもそも、流出元であるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出し、世界を巻き込む騒動となりました。一方で、2年後の2018年にも、新たな文書が流出しましたが、その時は大きな騒動にはなっていません。
その法律事務所「モサック・フォンセカ」は、この年、営業を停止しました。
事務所に対する否定的報道や当局からの圧力など「不当な措置」を理由に挙げています。

リスト公表の“サイト”は今も存在 新潟の医師「税務署が調査に来た」

8年前に話を聞いた新潟市の医師に改めて取材しました。
当時、公開されていた住所のマンションからは数年前に引っ越したそうです。
この騒動後、どんな影響があったのか、あるいはなかったのか、を聞きました。

― 8年前の騒動、覚えていますか?
医師「なんとなく…、思い出してきました」

― リストに個人情報が掲載されたあと、変化は?
医師「翌年、税務署だったかが調査にきました。なんかに名前が出ていたと」

― それで?
医師「脱税しているのでは…と疑われたみたいだったけど、説明したら納得してくれて、税務署の職員は笑って帰っていきましたよ。何だったのでしょうね。あの騒動は…」

“パナマ文書騒動”から8年。
実は今でも、『パナマ文書』を検索できるサイトが存在します。
当時3件ヒットした新潟県関係は2件となっていましたが、この医師の“個人情報”も8年前と変わらずに見ることができました。

この医師のように、“脱税”にも、“パナマ”にも関係ない人や企業の情報が、現在でもネット上にはさらされているのです。

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