海外のほとんどの国々では難しいが、日本では当たり前のように水道水を飲むことができる。その理由は水源が確保され、河川などの水質も良いからだ。しかし、日本が世界に誇るべき水道水に“あるリスク”が忍び寄っているのをご存知だろうか?
「PFAS」有機フッ素化合物の総称で、自然界で分解されにくく、生物の体に蓄積されることもあるため「永遠の化学物質」とも呼ばれている。
水や油をはじく性質から、フライパンのコーティングや衣類の防水加工、泡消火剤などにも活用されてきたが、一方で腎臓がんなどの発がん性リスクや肝機能の低下、生まれてきた赤ちゃんの体重低下などの人体への影響も指摘されているため、世界的にも製造や輸入が禁じられているものもある。
そのPFASが、2020年度からはじまった国の調査でも、全国各地の河川や地下水、水道から検出され始めたことから、国は暫定の目標値を定め、調査を進めてきた。
“水道水”に限った調査を初めて実施
私は、これまで国の暫定目標値を超える場所をいくつか取材してきた。PFASが検出される水源には共通点がある。関連性はまだ不明なものがほとんどだが、近くには泡消火剤などが使われてきた空港、自衛隊や米軍の基地周辺。また、有機フッ素化合物を製造したり、使用したりした工場周辺も発生源と考えられている。
このような場所からは国の基準を大幅に超える数値も確認されており、地元住民からも不安の声が挙がっていた。こうした中、環境省などはこれまで河川などを含めた水源でPFASの検出調査を行ってきたが、今回はじめて「水道水」に限って全国調査を行った。
2020年度から2023年度まででの調査で、国の暫定目標値を超えたのは14の水道事業者だった。国の暫定目標値を大幅に超えたことから、地域住民の不安はより増長し、浄水器を取り付けたり、ペットボトルの水を定期的に購入する人も現れた。こうした中で、11月に最新のPFAS検出状況が明らかになったのだ。あなたのお住まいの地域の水道水はどうだろうか?
上限ギリギリの数値だった場所は?
結論からいえば、国の暫定目標値を超えた自治体はなかった。しかし、全国トップとなった愛知県岩倉市は、国の暫定目標値1リットルあたり50ナノグラムに対して、上限ギリギリの49ナノグラムだったのだ。多少の誤差があることまで加味すれば、僅かに下回ったとはいえ、楽観はできない数値だ。
私は愛知県岩倉市の現場に向かった。人口約4万7000人が住む名古屋のベッドタウン岩倉市。市内に水源は9つあるが、そのうちの一つから全国トップの数値のPFASが検出された。
その水源は60棟以上のマンションが林立する全国有数のマンモス団地の中にあった。約2100世帯の暮らし支える給水塔は水をイメージしているのか青く染められている給水塔だった。
「原因を特定しようと探っているが、正直分からない」
住民にとってはまさに寝耳に水の“PFAS問題”。原因究明と対策が焦点になる。岩倉市役所の担当者を直撃すると「原因を特定しようと探っているが、正直分からない」と困惑の様子を見せていた。PFASと関係していそうな工場などもないし、水源は河川などではなく地下水だったため、どこからPFASが紛れ込んだのかまでは特定が難しいという。
PFAS研究の第一人者で、京都大学准教授の原田浩二氏に聞くと「地下水とはいえ、水源の上流地域にPFASと関連しそうな工場や施設がないのか、丁寧に見ていく必要がある」と指摘した。同時に「行政はPFASを低減させる努力を、個人の自衛策としてはPFASを除去する活性炭を活用した浄水器を使うこともできます」と語っていた。
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