『魚沼木炭』をご存知でしょうか?
“ブランド木炭”の生産者が減少するなかで、間伐材を活用したり福祉施設と連携するなどして、そのブランドを守っていこうと奮闘する炭焼き職人がいます。
新潟県魚沼市の特産品『魚沼木炭』の生産者の1人である、中川製炭代表の中川宏さん(55歳)は、気温がグッと下がったこの日も、地元のナラの原木を詰め込んだ炭焼き小屋の窯の火を見つめていました。
「僕も最初にやり始めた時は、本当にやっぱり心配で心配で、ちゃんとできるのかなという不安もあって離れられなかったんですけど…」
「緊張感よりも安心感というか…、次のわくわく感というか」
400℃ほどで焼いた後、仕上げに800℃ほどまで上げるそうでます。
「煙の温度はまだやっと30℃超えたくらい…」
「この温度計で300℃超えたくらいで、中は炭になったな と判断します」
水分など余分なものだけを燃やし、質の良い木炭にするには、窯の温度管理などに技術と経験が必要です。
原木は、火入れから5日間焼かれた後に5日間の冷却を経て、高い質が売りの『魚沼木炭』へと生まれ変わります。
木炭を割った時に聞こえる金属を叩いたような“軽い音”は、余計なものが抜けた良質な木炭の証です。
【中川製炭 代表 中川宏さん】
「黒炭は、火の粉が跳ねない。パチンというのがほぼないです」
「火力と火持ちも、海外産に比べれば当然、高いです」
炭には黒色の「黒炭」と白色の「白炭」とがあるそうですが、中川さんが現在作っているのは黒炭のみ。中川さんの炭は、炭火焼料理店はもちろんのこと、茶道の関係者などからも人気です。お湯を沸かす際に火持ちが良いんだそうです。
午前中の作業を終えた中川製炭代表の中川宏さん。
自慢の炭で、魚沼名物の“生ホルモン”とサンマを焼いていました。
昼食です。
「真面目な話をすると、自分で作った炭の“確認”というのもある」
「ああ、俺の炭大丈夫だなって。ここでホッと一安心」
「おいしいね」
そんなこだわりの木炭作りに励む中川さんは、神奈川県出身。
高校を卒業後、世界各地で旅をしながら働いていました。
知人がいた縁で、30年ほど前にこの地・新潟県守門村(当時)に移住。
「毎晩、毎晩、懇親会というものを開いていただき、すっかり取り込まれてしまって…。居心地の良さにここから離れられず、30年経ってしまいました」
世界中を巡った経験を持つ中川製炭代表の中川宏さん。
縁あってたどり着いた新潟県の守門村(現 魚沼市)に移住した後は製材所で働いていましたが、ある時に興味のあった炭焼きを体験。
その魅力にはまり、仕事とすることに決めたのが8年前。
「一番魅力的だったのは、炭焼きって“無駄がない”んですよね」
「製材所と言っても材木屋さんみたいなもので、そういう所にいると“規格外”というものがいっぱい…、そういうロスがちょっと嫌なところがあって」
『物を無駄にしない』。
木炭の原料の半分以上は、魚沼市の里山整備事業で“間伐”された木材です。
「間伐と言っても、切っただけで森に捨てるというのは多々あること。それを炭に出して活用できるということであれば、地域にとっても人にとっても、ものすごく有効になるのではないかな」
煙も、冷やすと肥料となる『木酢液』となって有効活用できるそうです。
一方で、地域の資源を利用して高品質な炭作りに励む中川さんら『魚沼木炭』を取り巻く状況は決して芳しくありません。
しかし今、新たな“就労支援”の先として注目されています。
「この業界って人がいないんですよ。もう、超高齢化で…。今も市内で黒炭焼いているのは僕1人です」
ところが中川さんは、将来的には窯を“増産”する計画を持っているのです。
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