子どもへの性犯罪について考えます。幼少期に被害に遭った女性は、トラウマを抱えて生きてきました。一方、かつて加害を行ってきた男性は自らを律する日々を過ごしています。被害者と加害者の証言から、小児性犯罪の実態に迫ります。

5歳で性被害にあった女性 その後の人生

月に1度、髪の毛をお気に入りの緑色に染める。心から笑えるようになるまで長い年月がかかった。

柳谷和美さん
「幸せになったり笑ったりするのが加害者に対する最大の復讐。絶対幸せになったんねん、みたいな」

柳谷和美さん(56)。30年以上、自分の過去を誰にも話せなかった。

柳谷和美さん
「子どもらしい子ども時代を奪う、性暴力は。加害者の一時の快楽によって、私はずっと『自分を殺したい』と思う」

初めて性被害にあったのは5歳の時。加害者は隣の家に住む友人の父親だった。家に遊びに行くと友人は外出していて、「お医者さんごっこをしよう」と声をかけられた。

柳谷和美さん
「遊びと思っているから、『全部脱いで』って言われたから脱いで。自分で二段ベッドに上がっていって、寝て、『今から診察しますね』と目隠しをされて、そこから体の感覚だけ」

受けた行為の意味を理解したのは中学生のとき。自分の体が汚く思え、自傷行為がやめられなくなった。普段から子どもに暴力を振るう父親や、世間体を気にする母親には一度も相談できなかった。

柳谷和美さん
「汚い、気持ち悪いって。自分に対してしんどかった。心から信頼できる人は誰もいなかったし、孤独でしたね。誰もいないって感じ。表面上の友達はいるけど」

30代のときに出会った夫には被害のことを話せた。全てを受け入れてくれ、時々「死にたい」と暴れる柳谷さんに優しく寄り添ってくれた。

柳谷和美さんの夫
「帰ったら(妻が)家中の皿を割っていた。壁や台所に。バンバン投げていて、どうしたんって」

柳谷和美さん
「私の存在がみんなに迷惑をかけているから消えた方がいいという思考になってしまう。でも毎回(夫は)いいよ、いいよって」

転機は2009年。参加した講演会で、性被害当事者が数百人の前で話す姿に衝撃を受けた。

「子どもの性被害の実態も知ってほしい」

そんな思いが募るようになった。柳谷さんも過去の経験を語り始めた。重い話を暗い顔で話すのではなく、明るく力強い言葉で。

柳谷和美さん(2014年)
「性暴力被害者が顔と名前を出して、『私、被害にあったんです』って言うことが憚られる世の中。そんなことは言ってはいけない。そんなことを言ったら独身の女性であれば『お嫁にいけない』と(言われる)。被害者は被害を受けた上に、二次被害、『私は汚れてしまった』『私は汚い』という感情を持ち続けてしまう」

思い出したくない過去を話すことで、高熱が出て体調を崩す時もある。半世紀の時を経た今も自分が受けた行為のおぞましさは心と体に刻まれている。

単なる性癖ではない精神疾患「小児性愛障害」の実態

子どもに性暴力を繰り返すのはどのような人物なのか。かつて何人もの子どもたちに性暴力を繰り返してきたという男性が取材に応じた。

自らの行動を冷静に分析する。

加藤孝さん
「自分は何者かっていうと、小児性愛者。思春期前の男児だったら、それで十分。あとは加害のチャンスがあるかどうか」

都内に住む加藤孝さん(62)。特に思春期前の少年に性的興奮を覚えるという。きっかけは大学生の時。成人男性が少年を性虐待するコミックを初めて読み、自分が求めていたものだと感じたという。

海水浴場で子どもの体を触ったり、家庭教師をしていた20代のときには教え子に性暴力を行ったり。これまで合わせて13人の子どもに性加害を働いた過去がある。

加藤孝さん
「加害を考える相手は、加害をしてしまっても反抗しないだろうと考える相手。加害を加害と思っていない。相手の子も気持ちいいだろうし、別にいいじゃないかと」

加害行為は徐々にエスカレートしていく。カッターナイフとロープ、そしてガムテープを持って下校中の児童の後をつけるように。

そして30代の時、逮捕のきっかけとなる事件を起こす。

加藤孝さん
「ひとりで遊んでいる小学生の男の子に『手伝ってもらいたいことがある』とだまして、男性用のトイレの個室に連れ込んで、わいせつなことをしようとしてガムテープで口を塞ごうとしたり、着衣を脱がそうとしたりした。でも、被害者が嫌がったのでそこまでで止めました。僕はしばらく個室に残っていた。そこで凄く怖くなりました。僕は子どもの命を奪いかねないと」

歯止めがきかない自分が恐ろしくなり、加藤さんは交番に自首。強制わいせつ未遂の罪で懲役2年、保護観察付きの執行猶予4年の有罪判決を受けた。

被害者の傷は消えることはない。 自らが犯した数々の罪と加藤さんはどう向き合ってきたのか…

加藤孝さん
「被害者の人生をひどい形で破壊してしまったと思います。本当に取り返しがつかない傷。しかも、その場だけで傷つくのではなく、長く長く続いてしまう傷を与えてしまって本当に心から申し訳ないことをしたと思っています」

子どもに性的な関心を持つ人は男性で5%、女性では1~3%とする海外のデータがある。

加害行為を繰り返す背景に指摘されているのが、単なる性癖ではなく、精神疾患「小児性愛障害」。ペドフィリアとも呼ばれていて、子どもを性の対象とし、少なくとも半年にわたって空想、性的衝動、または行動が継続するものと考えられている。

「小児性愛障害」と診断された200人以上の治療に取り組んできた精神保健福祉士の斉藤章佳さん。

子どもへの性加害の背景には、自らの行為を正当化する“認知の歪み”があると話す。

精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん
「こうやって自分に寄って来てくれるんだから、たぶん子どもも僕と性的な接触を望んでいるに違いないとか。子どもと道でばったり出会って、周囲に誰も人がいないときにすぐ頭をよぎったのが『おいしそう』と思ったらしい。こういう風に我々と子どもの見方が全然違う」

斉藤さんによると、小児性犯罪者が子どもに性加害を始めたときから治療につながるまでの期間は平均14年。逮捕されない限り、本人が病気だと認識しないケースが大半だという。

精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん
「治療を長く受けている人も含めて、子どもに対する欲求は消えたことがないと(言っている)。治るというよりは、そういう欲求や衝動を持ちながらも、加害をしないようなリスクマネジメントをしっかりして、今日1日、再犯しないということを積み重ねていく」

消えない性的衝動 治療の日々

かつて子どもに性加害を繰り返してきた加藤さん。逮捕後、弁護士を通じて「小児性愛障害」の治療のことを知り、性被害者の手記も初めて読んだという。

加藤さんも「小児性愛障害」と診断され、今は週に一度、性依存症の自助グループのミーティングに参加している。

加藤孝さん
「どういう時やどういうコンディションの時に(性行動が)起こるのか。どういうことに警戒すればいいのか」

加藤さんは罪を二度と犯さないために、性的衝動が起きやすい状況を紙に書いている。一人で部屋にいる時や暇な時。そして、疲れている時、感情が乱れている時、などと分析した。

外出する時のルールも決めている。

この日は、週に1度の精神科への通院の日。病院へは電車とバスを乗り継ぎながら1時間以上かけて通っている。

自ら分析した性的衝動のリスクから、加藤さんは子どもを視界に入れないことを徹底している。性別にかかわらず子どもを連想させるものも刺激になる。制服姿の女子生徒が電車に乗ってくると視界に入らないよう席を移動した。駅のホームで小学生が通りかかると目を閉じた。私たちには当たり前の光景が罪を犯しかねないリスクになる。

診察では、1週間どんな状況がリスクだったか、どう対処したかを振り返っている。

加藤孝さん
「実際の行動に及んでしまう前に自分のメンテナンスをし続けるのが大事。手前手前でリスクを低減させるということが効果を上げているし、その必要がある」

話の途中、加藤さんは突然10数秒間、目を閉じた。

――さきほど目をつぶったのは?

加藤孝さん
「はっきりしなかったが、未成年のような人が視界に入ったのでちょっと困りました。今も視界に入っているので、ちょっと目線を…実際にはどういう人ですか?」

――ブランコに乗っています。

加藤孝さん
「大人の方ですか?それとも…」

――高校生ぐらい。

加藤孝さん
「ちょっと危険ですね」

常に周囲の状況を気にしながら生活し、加藤さんは20年以上罪を犯さずに過ごしている。

「小児性愛障害」の原因については世界中で研究が進んでいるわけではない。

ただ、気になるデータがある。小児性犯罪者117人に行った調査では、虐待やネグレクト、親にアルコール依存症などの問題がある家庭で育ったケースは合わせて36%だった。また、半数以上が学生時代に「いじめ」を受けたと回答。

全ての加害者に当てはまるものではないが、数少ないデータの一つだ。

加藤さんは母親の連れ子で、育った家庭では父親と血の繋がりがなかった。両親が喧嘩をすると「あんたのせいだ」と言われ、孤独を感じたことを今でも覚えている。

小中学校ではいじめを受け、高校から不登校に。同世代の人たちに恋愛感情を抱いたこともあったが、 自分に自信が持てなかった。 

加藤孝さん
「試行錯誤を繰り返していけば成人同士の恋愛や性に傾けたと思うが、その時期にその道を諦めてしまって、どんどん小児性愛にのめりこんでいった」

加藤さんはSNSで過去の過ちを全て公表し、治療の経過を発信し続けている。同じ問題を抱える人に加害の衝動は抑えられることを伝えたい思いからだ。

小児性犯罪 被害者と加害者の思い

5歳のときに性被害にあった柳谷さん。被害を公表してから加害者への治療についても学んだ。加藤さんともSNSで繋がった。

柳谷和美さん
「加害者がいなくなれば被害者がいなくなる。私と同じような凄く苦しい時間を味わう子どもがひとりでもいなくなったらいいなと」

2024年4月、ジャニー喜多川氏からの性被害を告発した元所属タレントらが開いたイベント。小児性犯罪の実態や性教育のあり方について話し合われた。

元ジャニーズJr. 二本樹顕理さん
「幼少期の成長段階から正しい知識を身につけることが、加害行為も被害も防ぐことができるというところで非常に重要なものだと感じました」

参加者の中に柳谷さんの姿があった。そして、会場には加藤さんの姿も。柳谷さんから加藤さんに声をかけた。SNSを通じてお互いのことを知ってはいたが、実際に会うのはこの日が初めてだ。

柳谷和美さん
「私はずっと加藤さんの勇気は凄いなと思っている。その決意が希望になると思います。先頭に立って。いろんな事件、性暴力だけじゃなくて、(加害者が)悪いと思っていないのが一番腹立つ」

加藤孝さん
「僕自身もそういう時期もあって、自分が変化したことを改めて認識して、あなた(加害者)も変われることを伝えるのが自分の役割だと思いました」

2人は相反する立場で被害者も加害者も生まない方法を考え続けている。

加藤孝さん
「加害経験者の立場でこういう場にいることが歓迎されることなのか、許されることなのかという不安があった。自分ができることはなんだろうということをもう一度考えたり、必要があれば行動したりすることをやっていこうと改めて勇気をもらいました」

加害者への憎しみを持ち続けてきた柳谷さんは…

柳谷和美さん
「加藤さんの姿は自分にとっての加害者にやってほしいことかもしれない。たぶん生きてはいないだろうけどね。性暴力の被害と加害を知ることで、その怖さとか悲惨さを知ることで、これからそれを無くしていくためにどうしたらいいのか。否定、批判、ダメ出しばっかりしていても何も進まない」

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