静岡県焼津市で、低速の電動カートを使った移動サービス「つなモビ」の実証実験が12月15日まで行われている。交通課題の解決と地域活性化を目指す経済産業省の事業の一環。市内45の停留所で乗り降りする。

乗車の5分前までにスマートフォンか電話で予約して呼び寄せ、目的の停留所へ直接行くことができる。人を運ぶだけでなく、人と人の新たな交流を生むという「つなモビ」。国内のMaaS(Mobility as a Service)第一人者で、運行を手掛ける森田創さん(合同会社うさぎ企画代表)に、「つなモビ」ならではの魅力と、交流を広げるための秘策を聞いた。

◆つなモビの魅力とは?
つなモビの停留所は、商店や直売所、観光施設など。時速20キロ未満の低速で巡るからこそ、乗客同士、乗客と停留所近くの店の人たちの間に自然と会話が生まれる。焼津の魅力や人の温かさを感じられ、心と心が自然と近くなる。「グリーンスローモビリティ」という乗り物ならではの魅力だと思う。

◆大通りだけでなく比較的狭い道も通る。狙いは?
裏通りには焼津の歴史が詰まっていて、地元住民ですら知らない魅力がある。しかし、最初から裏通りを通っていたわけではない。つなモビの運転手は市内のタクシー会社の現役ドライバーの皆さん。実は元々大通りを走っていたが、つなモビは低速なので、他の車の通行の邪魔になるのではないかと運転手が遠慮して、仕方なく裏道を通り始めた。

結果的に観光客だけでなく普段マイカーで大通りを移動している地元住民にとっても、焼津の新たな魅力と出合うきっかけになった。

45停留所 選んだ決め手は「親切」

◆停留所はどう決めた?
私自身が、自分の役割を伏せて、直接足を運び、食事をしたり店の人と話したりして、親切にしていただいたかどうかを選定基準にした。

観光客の第一印象は、その土地で出会う店の人や運転手の対応によって決まる。だからこそ、外から来た人に温かい対応をしてくださるかどうかをとても大切にしている。

つなモビの「つな」は、ツナだけでなく「つながり」の「つな」でもある。人と人のつながりによって焼津の町を好きになってもらい、また戻ってきてほしい。
親切にしてくださることで、観光客と店主の心と心の距離が縮まり、焼津に繰り返し訪れるファンをつくることにつながる。

◆交流を生むために工夫していることは?
3minutes Project」。自分の店のこと、商品のことなど何でもいい。つなモビで訪れたお客さんに3分間、説明をしてくださいとお願いしている。

たかが3分だが、店主が自ら店の魅力、焼津の魅力を発信することで、観光客と店の間に交流が生まれ、観光客は町をより身近に感じられる。

◆乗客の反応は?
1日の平均乗車回数は約40回と、国内の同類の実験でも最上位。上々だ。今は乗客の数も予想を上回っている。

貸し切りたいという要望が多い。「80歳の女子会をするので貸し切りたい」「焼津を案内するにはつなモビに乗ってもらうのが一番いいので2時間貸し切りたい」など。乗客が6人集まれば対応している。

観光客は、例えば朝10時にホテルをチェックアウトして午後東京に帰る。3時間半程度で昼食を食べてお土産を買って、限られた時間をなるべく楽しみたいという人にとっては、つなモビでダイレクトに店へ行ける点で好評だと感じる。

予約は乗る5分前まで LINEから約30秒で完了

◆料金や予約方法は?
予約は焼津市の公式LINE上のアプリか電話で、前日から乗車の5分前まで予約できる。料金は1日乗り放題で700円、1回利用なら300円。LINEを使えば30秒くらいで予約できる。ユーザー登録をして、目的の停留所、今いる場所を選べば予約完了。

運賃はLINE上のアプリで決済できる。降車時に現金で支払うこともできる。いま、7人乗り(運転手含む)が2台、午前10時から午後5時まで運行している。混雑時は少し待っていただくことがある。

◆実証実験は2022年に始まり3回目で、今回が最終となる。今後の展望は?
12月15日までの実験を終えた後は、市の事業として365日運行する形を目指している。焼津の潜在的な魅力を引き出していきたい。

森田創(もりた・そう)氏
合同会社うさぎ企画代表。作家。東京大学卒業後、東急電鉄(現・東急)に23年間勤務。渋谷駅直結のミュージカル劇場の開業責任者、広報課長を歴任。2019年、日本初の観光型MaaSを伊豆半島で立ち上げ、国内の第一人者として全国各地の事例開発に携わった。2022年、モビリティと人材交流による地域活性化を手掛ける合同会社うさぎ企画を起業。

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