1968年に発覚した食中毒「カネミ油症」をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映が、29日から長崎市で行われています。
映画「母と子の絆 カネミ油症の真実」は、56年前に発覚したカネミ油症事件の次世代被害に焦点を当てたドキュメンタリー作品です。
カネミ油症とは?
カネミ油症は、1968年に市販のこめ油に化学物質PCBが混入したことによる食中毒です。西日本一帯で1万人を超える人々が、皮膚症状や脱毛、内臓疾患などのさまざまな健康被害を訴えました。届け出た人は、ごく一部だったと指摘する声もあり、被害の全容は分かっていません。
その後の研究で、PCBが熱で猛毒のダイオキシン類に変化していたこと、油に非常に溶けやすく体内に残存し続けることが分かりました。さらに、被害者から「黒い赤ちゃん」が生まれたことをきっかけに、へその緒や胎盤を通して次世代にも影響を及ぼすケースがあることも分かりました。結婚や就職での差別をおそれ、家族にさえも油症被害を隠している人も少なくありません。
生後4カ月で亡くなった長男
長崎県五島市奈留島に住むカネミ油症患者の岩村定子さんは、今回の映画に登場する被害者の1人です。汚染油を口にした後に生まれた長男・満広ちゃんは、口唇口蓋裂や心臓疾患などの先天性疾患を持ち、生後4カ月で亡くなりました。
岩村さんは「自分が汚染油を食べたことが原因ではないか」と考え、満広ちゃんのへその緒を分析するよう、九州大学を中心とする油症治療研究班に依頼。その結果は「農薬が混ざった可能性がある」という不可解なものでした。
岩村さんには、亡くなった満広ちゃんの下に2人の子どもがいますが、全員油症患者には認定されていません。
映画が描く現在進行形の課題
映画では、満広ちゃんのへその緒の再分析を別の機関に依頼する様子や、油症患者の認定を行う長崎県職員が、岩村さんの家を訪れやり取りする様子などを記録、今も続く被害者の壮絶な苦しみを訴えると同時に、行政や研究機関の対応への疑問も描き出しています。
監督・稲塚さんの思い
監督を務めたのは、「二重被爆」などの作品を手がけた稲塚秀孝さんです。2021年以降、全国に散らばる被害者のもとを訪れてその声を丹念に拾い上げ、複雑な歴史についても多くの関係者の話をもとに紐解いています。
岩村さんは映画について、「親たちは子どもに現れる影響を見て、汚染油を食べた自分を追いつめている。映画をきっかけに関心を持って、自分ごとのように考えて欲しい」と話しています。
上映情報
映画「母と子の絆カネミ油症の真実」は、長崎市の長崎セントラル劇場で12月5日(木)まで上映。その後、東京、大阪、北海道でも上映が予定されています。詳しい日程は映画の公式ホームページをご確認ください。
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