東京ミッドタウンの高層ビルのほど近くに、小さなお地蔵さまがあるのをご存じでしょうか。約40年前のこと、バブル時代の「影」を色濃く象徴するような悲劇が起きた名残なのです。(アーカイブマネジメント部 疋田 智)

お地蔵さまのあるところには

東京ミッドタウンのお膝元、華やかな六本木の一角に少々場違いな感のあるお地蔵さまがひっそりと存在します。

1988年の1月5日。

雪のちらつく日に、ここで悲劇が起きました。六本木トゥーリア照明落下事故。3名が死亡、14名が負傷するという大惨事でした。

最先端のディスコ「トゥーリア」

トゥーリアは当時「最先端の高級ディスコ」として有名な存在でした。
収容人数約800人を誇り、有名空間プロデューサーがアレンジした「近未来をイメージした内装」が売りでした。

3フロア吹き抜けの店内は「近未来の惑星に宇宙船が不時着した」というコンセプトで作られ、その宇宙船を模したのが、巨大照明装置でした。

その巨大照明装置が8.2メートルの高さから突然、落下したのです。

「1.8トンが上下する」という装置

照明装置の重量は、約1.8トン。それが直径6mmのワイヤー8本で吊り下げられていました。ところが、そのワイヤーを巻き取るドラムとモーターを結ぶチェーンが断裂したのです。いちおう安全装置のストッパーが設置されていたものの、照明装置の落下速度が速すぎて機能しませんでした。

事故当時、店内には約200人の来場者がいたといいます。真下にいた17人が下敷きとなり、女性2人、男性1人が死亡しました。

わずか数十cmの差が生死を分けました。

落下した照明装置は、図にある通り楕円に近い形状をしており、中央部には何もない形状でした。このため、落下時に中央にいた客は軽傷ですんだといいます。

杜撰な設計と事故の影響

事故原因はなんだったのでしょう。当初は店員の操作ミスのように言われましたが、後になって、設計ミスが原因だと判明しました。吊り下げ装置が弱すぎたのです。

上下動の際に、装置には約3.2tの荷重がかかるところ、1t程度の荷重にしか耐えられない設計でした。

照明の吊り下げ装置は、事故後の実験で3分の1以下の強度しかないことが分かったのです。

この事故により「トゥーリア」は開店わずか8か月で閉店となり、社会は大きな衝撃を受けました。安全基準の見直しが進められた一方で、責任の所在を巡る議論も続きました。

施工会社の関係者には有罪判決。しかし店の運営者などには責任が問われなかったことで、批判の的となりました。

ディスコブームとバブルは続く…

この事故を受け新安全基準(懸垂物安全指針)が取りまとめられ、その一方、トゥーリアはひっそりと取り壊されました。

約40年前の事故、六本木の風景もずいぶん変わりました。

この跡地に設置されたのが、冒頭のお地蔵さまなのです。
しかし、この事故以後もバブルのディスコブームは止まらず、六本木を避けるように、ブームの中心地を「ウォーターフロント」に移し、芝浦GOLD、ジュリアナ東京などが全盛を極める時代がやってくるのです。

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