いわゆる103万円の壁や手取りを増やすといった国民民主の政策。これは憲法で保障されている健康で文化的な最低限の生活を送る人たちの更なる向上を目指したものだ。

しかし、日本には今その最低限の生活もままならない貧困が急増している。

相対的貧困率ではG7中最悪の15.4%(2021年統計)。人口にして約1930万人だ。

生活保護を申請した件数は去年過去11年間で最悪の25万件を超えた。

今、日本の“貧困”はどんな姿をしているのか…。

闇バイト受刑者「生活保護を受けるところまで落ちたくない」

なぜ若者が“闇バイト”に手を染めるのか。

免許証や自宅を知られ怖くなったからという声もある。

しかし、全国26か所の少年院を対象に去年、調査を行った龍谷大学の教授に話を聞くと違った側面も見えて来た。

ハイリスクハイリターンを狙うその理由に若者はこんな答えをしたという。

「こんなちゃんとしない政治や、悪い方向に向かって行ってしまう日本じゃなければ闇バイトなんかしない」

「安定した収入が得られてお金に困らない社会があればやらずに済んだ」

龍谷大学 浜井浩一 教授
「日本社会がもっとまともで、頑張ればちゃんと将来明るい未来が展望できるんだという、そういう希望が持てる社会であればこんなバイトに手を出すことはなかったという少年は複数いた。103万円の壁を170万円にすれば解決できる問題ではないです。増える手取りで若者たちが将来にわたって人生設計、幸せな未来を描けるようになるのかと言われれば、かなり疑問だろうと思います」

こんな社会でも当然闇バイトに手を出さない人の方が多いので、彼らの言い分をすべて納得できるわけではない。

しかし浜井教授の調査で分かったのは、困窮する若者だけでない我々の社会に潜むこんな意識が、増加する“闇バイト”の裏に横たわっているのではないかということだった。

龍谷大学 浜井浩一 教授
「非行少年や受刑者と話していても『生活保護を受けるようなところまでは落ちたくない』みたいなことを言う人がいるので、生活保護をもらうこと自体が悪いこと、人に助けてという何らかの支援を受けることが望ましくないという、ある種の強迫観念を我々の社会は共有しているんだろう…自助があってから共助公助ですよね。そういう意味で助けを求めにくい社会、それが孤立を生みやすいことになるのでは…」

確かに日本は生活保護を受けるべき人が、支援されていないケースが他の先進国に比べて極端に少ない。

日本は22.6%。つまり77.4%の人は生活保護を受けるべき経済的な困窮の中で、何らかの理由で支援を受けられていないということになる。

「生活保護だけではもう生活できないんです」

日本はどれだけの人が公的支援を受けられていないのだろうか。現場を取材した。

愛知県一宮市のNPO法人、サポートセンター『のわみ相談所』。

貧困支援などに取り組み今年で26年になる。

番組が訪れた日、相談所の前に行列ができていた。

無料の食糧支援の日だった。相談所が週3回実施している“フードバンクのわみ”。

この日は13人が支援を受けた。配布された食料を手にした83歳の男性は言う。

「食べていけないから来るの。そりゃ大助かりや、のわみ様さまやわ。足向けて寝られんよ…」

月5万円の年金で暮らしている75歳の男性は…。

「食事は1日分を2日くらいかけて食べるようにしてる。お腹空いちゃうのはもう慣れちゃって…これでもええわっていうやけっぱち…」

一人暮らしの高齢者が多い中、家族からのDVで家を出たという20歳の男性がいた。現在は生活保護を受けているという。

「(自由に使えるお金は)食費とか含めると3~4万円くらいです。まず高校卒業したい。高校行きたい。行くためのお金稼ぎたい…」

支援を続ける代表の三輪さんによると、昔と今では貧困の形が変わってきたと話す。

『のわみ相談所』三輪憲功 代表
「困窮者はむしろ増えているとみています。昔は野宿者が多かったんですけど、今は広い意味のホームレスの方が多いと…。家があっても自分の居場所がない。DVの問題とか“見えないホームレス”って色々ありますけれど…

生活保護を受けてても生活保護だけではもう生活できないんです。一人暮らしの例でいうと10万6000円かそこら仮にお金が出ますね。そこから家賃、食事代とか光熱費とか引いていくと…電話代も含め…しかも物価が上がってますから生活は無理なんですね…。

今の生活保護の仕組みを何か変えていく必要があるんじゃないかなと…。生活がきちんとできるような金額をやっぱり払ってあげないと…。最低限の生活っていうのは憲法で保障してるわけなんですから。今のでは生活保障にならないですね」

「車を持っていないとか生命保険に入っていないとか…」

『のわみ相談所』では“フードバンク”だけでなく、住むところがない生活困窮者に“シェルター”と称する一時的な住居を低料金で提供している。

食費・光熱費込みで月額2万5000円だ。

シェルターを利用して2か月半になるという27歳の男性に話を聞いた。現在、生活保護申請中だという。

シェルター住まいの男性(27)
「あと2か月くらいで貯金は尽きちゃう。多分、実際(生活保護の)決定が下されるまで2週間くらい経つんですけど、その間に色々調査が入って…車を持っていないとか生命保険に入っていないとか…そういうことが調査されるんですけど…。他の人の話聞いてたら生活保護が下りなかったっていう人、結構たくさんいるようなので、すごく不安…」

相談所では現在、市内29か所にシェルターを設け、約80人を受け入れている。

因みに『のわみ相談所』の運営費は年間約3000万円。

そのうち4割は助成金と寄付だというが残る6割は代表が営むリサイクル業、便利屋等の収入、つまり私財を投じている。

その代表と中継を結び、改めて話を聞いた…。

「憲法は“きれいな虹”だけど、“何とかしてください”って相談に行くと“虹が消えちゃう”」

代表が言う、今増えている“見えないホームレス”とは…

『のわみ相談所』三輪憲功 代表
「家があっても居場所がない人がものすごく増えてきている。DVの問題で本当の居場所がない…。車で移動しながら(暮らす)カーホームレスの人も見つけることが非常に難しい。それからネットカフェとか…。そういうところで生活してる人、友人宅を転々としている人。そういう色んな形で(政府が把握できないために生活困窮者の数の入らない)広い意味で“ホーム”が“ない”という方(=見えないホームレス)が非常に増えている」

取材時に「生活保護では生活できない」と訴えていた三輪代表に、政治に訴えたいことを問うた。

『のわみ相談所』三輪憲功 代表
「日本は非常にいい憲法を持っているわけです。13条14条25条と…。その憲法は、それは“きれいな虹”だと思うんです。ところが、生活困窮者が“何とかしてください”って自治体の関係部署に相談に行くと“虹が消えちゃう”…そういった事例が結構ある。“消えない虹”を作っていただきたい」

加えて日本の生活保護のハードルは西洋に比べて厳しすぎると指摘した。

三輪代表が厳しすぎるという生活保護受給要件とは…。

▼最低生活費を下回る収入(地域、世帯状況によって異なるが、例えば東京23区内の単身者の場合…約13万円)
▼ケガなど事情があって就労できない
▼親族の援助が受けられない(3親等まで自治体が調査)
▼土地、家、車、有価証券他ぜいたく品を所有していないか

スタジオには与野党の幹部が並び、三輪代表の訴えに耳を傾けた。

自民党 片山さつき 政調会長代理
「やってる自治体とやってない自治体に凄い開きがあって…。生活困窮者自立支援制度というのが2015年からありまして…公費が出る。第2セーフティーネットと言って…」

立憲民主党 重徳和彦 政調会長
「…車の所有なんかは“無かったら生活できないじゃん”って声を聞いて自治体の裁量っていったら何ですけど実情をよく見るケースワーカーの方が判断できるようになってる…はずです…」

国民民主党 浜口誠 政調会長
「生活保護要件の中でも親族の調査、そんなこと知られたくないから“だったらもう生活保護いいです”ってシャッター下ろしちゃう。こういった仕組みは当事者の立場に立って…」

国会の責任と自治体の責任。

3人とも三輪会長の声を真摯に受け止めていたが明確な改善策はなかった。

すると三輪代表から踏み込んだ意見が出た。

政治が決断すべきギリギリのところに日本はすでに来ているのではないか。

『のわみ相談所』三輪憲功 代表
「日本は他の諸外国に比べて生活保護が十分ではないし、柔軟ではない。場合によっては生活保護法を廃止してですね、生活保障法に切り替える。日本弁護士連合会が言ったんですが私もそう思います。保護ではなく、保障していく、そういう法律を是非国会で考えてもらいたい。

困っている方々を困らないよう生活できるようにするのが政治家の本来の仕事。困った人がたくさんいる。30年前ホームレスは野宿者でした。しかしいまは居場所がない人、ホームガレスの人がどんどん増えているんです。こういう人を政治が何とか是非やってもらいたい」

(BS-TBS『報道1930』11月20日放送より)

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