大根おろしをつけ汁にして食べる「おしぼりうどん」。
使われているのは、しもぶくれのフォルムがかわいらしい「ねずみ大根」です。
地域の人が守り伝えてきた長野県坂城町の特産品ですが、いま、猛暑の影響にさらされています。


坂城町で収穫の時期を迎えているのが、町の特産品で信州の伝統野菜に登録されているねずみ大根です。

一般的な大根と比べて、しもぶくれで短く、ねずみのしっぽのような細長い根があります。

最大の特徴は辛みのある味わいです。


生産者 町田泉次さん:
「あまもっくらさという長野県の中でも7か所ぐらいこの辛み大根をやっているらしいんですけど、(ねずみ大根は)そんなにバカっ辛くないんですよ。おろしにして食べてみても『え?辛くないよ』と。二口目三口目になってくるとじわーっと辛くなってくるそういう特徴があります」

「あまもっくら」と表現される、辛さの中に、ほのかな甘みもある味。


このねずみ大根のおろしを使って、町内の様々な飲食店で提供されている名物が「おしぼりうどん」です。

町の直売所に併設する食堂では毎朝麺を手打ちするこだわりよう。

記者:
「おしぼりは人気ですか?」
直売所あいさい 中島茂美さん:
「人気ですね。平日でも40食から50食でるんですよ。粉が足りなくなっちゃって早々にけさ上田の問屋さんに電話してもってきてもらうようにしたんですよ」
「普通の大根ってすれば水分のほうが多いけど、ねずみ大根はそうでもないですよ。この大根のほうが味があるんじゃないですか」

大根おろしをつけ汁にして食べる「おしぼりうどん」。

こちらの食堂では辛みが飛ばないように注文が入るたびにすりおろします。

つけ汁に味噌をとくことで辛みが調節でき味の変化も楽しめます。

直売所あいさい 中島茂美さん:
「昔はお酒を飲んだ後食べるというのが、そういう形だったんですよ。やっぱり飲んだ後さっぱりするんじゃないですか。一番遠くて川崎だったっけ県外多いですよとても。それだけ有名になってくれて私たちもうれしいんですけど」

直売所でもねずみ大根が販売されていて、この日は、8時半の開店直後から多くの買い物客が訪れました。

埼玉から:
「うどんやさんで、おしぼりうどんをいただいて、この大根辛くておいしかったので、どちらで買って帰れるかなってここ伺った次第です」

こちらの夫婦は漬物用に5キロを購入。

購入した夫婦:
「普通の大根と違うよね、シャキシャキしておいしいですよね。歯ごたえがあってね」


県内外に知られるねずみ大根ですが、その歴史は古く、江戸時代には俳人の松尾芭蕉が町を訪れ、おしぼりうどんを食べて詠んだとされる句が残されています。


西念寺 若麻績実豊住職:
「『身にしみて大根からし秋の風』松尾芭蕉の更科紀行に載っている句なんですよ。1688年坂城宿の本陣、宮原拾玉邸に招かれて滞在した。その時おしぼりうどんで食してこの句が詠まれたといわれています」


西念寺では芭蕉の句からおよそ80年後に建てられた本堂の向拝(こうはい)にも大根の彫刻が施されています。

寺社の建築物に使われるモチーフとしては珍しいということですが、住職は大根の里として知られるこの町で、地域の人々の幸せを願って彫られたのではないかと話します。

西念寺 若麻績実豊住職:
「この町に昔から暮らす人たちのひとつの伝統野菜として、これからも大切にしていくべきものだと思います」

この地域に根付く伝統野菜がいま、猛暑の影響にさらされています。


ねずみ大根は8月末から9月の頭にかけて種をまきますが、暑さで種が焼けてしまい、発芽しなかったり、芽が出ても、高温少雨によって発生するとされる病害虫の被害にあったり。


町によりますと収穫量は2年連続で例年の半分程度に落ち込む見込みです。

町商工農林課 田子謙介係長:
「生で販売する分も少なくなってしまいますし、町の伝統食であるおしぼりうどんの提供店飲食店にも影響は出ますし、多方面に影響が出ることは間違いないかなと」

収穫量の減少を受けて、11月9日に予定されていた、ねずみ大根まつりが中止になりました。

収穫体験と大根の詰め放題などで毎年、全国からファンが集まる人気のイベントです。

町内の直売所や飲食店の不足分を補うために、イベント用に育ててきた大根を各店舗へ分配せざるをえませんでした。

町商工農林課 田子謙介係長:
「今後も夏の暑さは続いていくと思うので、種をまく時期をどうするかだとか害虫が出始めたとするならば早期の段階でどういった薬剤を使って消毒をしていくのが有効なのか、専門家の意見を聞きながら情報をできるだけ早めに展開していく、そういったことが考えられるかなと思います」


生産者 町田泉次さん:
「そういう対応をしながらまたここに全国の人たちがここにツアーで来ていただけるような収量がほしいですよね。にぎやかになるし、町の活性化にも当然つながってきますからね」

被害を抑えるために水をこまめに与えるなどの対応策をとっている生産者。

しかし根本的な解決にはつながっていないといい、気候変動という地球規模の課題にどう向き合えばよいのか頭を悩ませています。

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