読書の秋、書店などで本を手に取る人も多いかもしれませんが、文庫本の上の部分に注目してください。多くの文庫本は本の上部の紙がそろっている一方、なかには不ぞろいでガタガタしている文庫本があります。
これなぜだろうと疑問に思ったことありませんか?実はあれ、”あえて”なんです。出版社に”あえて”の理由を聞きました。

読書の秋…文庫本を手に取ると、文庫本の上部がキレイな一直線にそろっているものと、上部が不ぞろいでガタガタしているものがあります。

さらには、特定の出版社でガタガタのものが多いなと気付いている人もいるかもしれません。


この違いは何なのでしょうか?出版社の造本担当者に話を聞きました。

早川書房 造本担当者
「本は元々、紙の束を綴じて本にしたという経緯がありますので、周りが綺麗に切り揃えられたものではないんです。文庫の先駆け的な存在である岩波文庫も、この本の上の部分『天』を切り揃えない手法を採用しました。

我々、早川書房の早川文庫もその伝統を受け継いで、上の部分『天』は切り揃えないで商品として出しております。

『天アンカット』という名称で呼んでおり、それ以外のものは綴じてあるところ以外の三方を裁っているので、『三法裁ち』という名称で呼んでおります。」

本の上部分は「天」。ちなみに、反対側の本の下部分は「地」。
本を束ねている部分は「背」、反対側の本を開く側は「小口」と呼ばれています。

「天」・「地」・「小口」をキレイに切りそろえているのが「三方裁ち」。
そして「天」を不ぞろいにしているのは実は意図的で、「天アンカット」と呼ばれるということです。

「三方裁ち」だと全部キレイになるのに、なぜ天だけはカットしない「天アンカット」を採用しているのでしょうか。

早川書房 造本担当者
「あえて採用している理由としては、文庫のオリジナル、当初の形をいまに受け継ぐため。紙の束で雰囲気を表現したいというのが大きいです。

ただ、非常に難しいところもあります。不揃いでガタガタになっているんですけれども、これが不揃いすぎても良くないんです。
通常本というのは、1枚の紙に複数のページを印刷したものを何度も折って、そして周りを切って、ページが開く本の形にしています。

『天アンカット』の場合、上だけ切らないので、帳尻が合わせられないんです。綺麗に折らないとガタガタになりすぎでしまうので、我々がお仕事させていただいてる製本所の方は非常に技術力を持っている。だからこそできる。あとは、余分な紙を切りおとさないので、少しエコだっていうことは言えるとは思います。」


実は「三方裁ち」の方が製品としては効率が良く生産できるようですが、この「天」だけをガタガタにすることに様々なこだわりや思いが詰まっているんだそうです。

ですが、読者にはあまり知られていないことも多いようで、思わぬクレームが来ることも…


早川書房 造本担当者
「読者の方々から『不良品です。交換してください』という問い合わせが、以前からも、そしていまも定期的にきます。大抵の本は切り揃えられていますのでそのお気持ちがよく分かりますし、我々としてはそれだけ本をよく見てくれていて嬉しいなと思います。」

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