大規模な災害が起きた時、被災地に駆けつける医療チームのなかに心のケアに務めるチームがいます。災害派遣精神医療チーム、通称DPAT(ディーパット)です。元日の能登半島地震と9月に起きた豪雨災害で能登で活動したメンバーから語られたのは、住民も行政も疲弊している被災地の現状でした。

取材に応じる池田さん

「一定の活動はできたかなとは思うが、十分かと言われると…全くそこは十分だったと思えず、思い悩んでいますね」

石川県立こころの病院の看護師で、県内唯一のDPATインストラクターとして勤務する池田隆義さんは、元日の能登半島地震や9月の能登豪雨の発生直後からDPATの一員として被災地での精神医療の支援にあたりました。

災害医療を行うDPAT…DMATとの違いは

DPATは、東日本大震災を機に被災者の心のケアが重要視され2013年、国が各都道府県と政令市に整備を求めました。被災地で救急治療を行う、DMAT(ディーマット・災害派遣医療チーム)とは異なり、被災者の声に耳を傾けながら精神的なケアを担います。

普段は看護師として勤務する池田さん

池田さん「特に我々が一番怖いのが、被災地でのうつ病や、パニックであったり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とかを発症する方だけでなく、もともと精神疾患を抱えている方が災害によって悪化してしまうことです。その支援に入るのも大きな役割の一つだと思います」

元日の地震の直後、七尾市に向かった池田さんたちのチームは、避難所で興奮状態にある被災者のケアにあたったり、薬がなく不調をきたした被災者に薬を手配したりと緊急性が高い対応に追われました。なかには避難先で認知機能が低下して徘徊を始めた被災者の対応にあたることも。

住民も職員も疲弊…支援に入れない被災地

一方、9月の能登豪雨の発生直後は、現場によっては「支援に来られても、話すことはできない」と支援を受け入れる状態にない状況だったと話します。

水害後に被災地入りしたDPAT 提供:池田さん

池田さん「しばらく支援を待ってほしいという地区がありました。話を聞くと『今はそっとしておいてほしい』というような、メンタル的には黄色信号から赤信号に近いような状況だったのが一番印象的でした。衝撃的なことがあり過ぎたので、そっとしておいてほしいという心情ですね。1月から頑張って、徐々に仮設住宅も出来て、ちょっと先が見え始めたかなという時に甚大な被害を受けた心の傷は想像を絶します。そういう地域では、職員さんも、ものすごく疲弊されている」

水害後に被災地入りしたDPAT 提供:池田さん

池田さんらは、地域の保健師やメンタルサポートをする人との連携を強化しながら見守る体制を整えましたが、1週間という活動期間の短さに十分な支援ができたのか自問自答しています。

「前を見る力もない」と話す被災者…足りない支援

石川県では現在石川こころのケアセンターが被災者の心のケアを担いますが、度重なる災害に「前を見る力もない」と話す被災者もいるとして、池田さんはボランティアなどの様々な支援が必要だと考えています。

水害後に被災地入りしたDPAT 提供:池田さん

池田さん「地域で一生懸命、泥出しされている住民に表情がないんですよね。活気がないとか、そういうレベルじゃなくて、表情がない部分で、だいぶ疲弊されているな、とすごく感じました。若い自営業の方は再建のお金を、何とかかき集めて、新しく何か立て直したり、道具を揃えたりというようなお仕事をされていた中で、それが全部流されてしまった。物資や金銭の支援も必要になってくるかなと思う」

また池田さんは、今は緊急性は無くとも遅れて出てくる症状もあるとして、医療支援を受けた方が良い症状の目安について話します。

「遅れて出てくる症状もある」

池田さん「単純には言えないが、やはり不眠だったり、強い不安だったり、感情がコントロールできない状況が挙げられます。普段とは違うことを繰り返すお年寄りは、認知症の発症や、環境の変化についていけないことがあるので、なるべく声をかけて、必要であれば医療に繋ぐ要望をされたらいいかなと思う」

2度にわたり大規模な災害に見舞われるなか、心が疲弊する被災者にどう寄り添うか。医療関係者の葛藤が続きます。

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