関門海峡を望む下関市の「火の山ロープウェイ」が、11月10日、運行を終えました。昭和のロープウェイが姿を消すことになり、長年支えてきた職員たちが最後の別れを惜しみました。

10日午後5時すぎ、大勢の乗客を乗せたゴンドラが、ゆっくりと出発しました。火の山ロープウエー、最後の便。まるで別れを惜しむような涙雨となりました。

下関市出身で市・公営施設管理公社の古澤卓巳さん、48歳。30年間、運転や整備に携わってきました。

古澤卓巳さん(48)
「そりゃさみしいですよ。もったいないなと思いますけど、いつかくるだろうな、リニューアルかっていうのは分かっていたんで仕方ないですね」

66年で1350万人を魅了
66年前の1958年、火の山ロープウェイは開業しました。これまでにおよそ1350万人を楽しませてきました。標高268メートルの火の山山頂近くと、ふもとにある駅から2台のゴンドラが上下に行き交います。関門海峡と行き交う船、下関・門司が一望できるおよそ3分間の“空中散歩”です。下関市の歴史や観光名所を案内する「ガイド」も名物でした。

しかし順風満帆なことばかりではありませんでした。利用者の減少で営業を休止した年もありました。ゴンドラは2代目で、1978年製造の昭和を感じるデザイン。老朽化が進んだことに加え、火の山周辺を整備する計画の中で、新しいロープウェーを設置することが決まったため、生まれ変わることになりました。

新しいロープウエーはスキー場のリフトのような形で、ゴンドラはなくなります。

見学イベントにぎわう

ラストイヤーとなった今年はコロナ前以上の賑わいでした。先月の運転席などを開放する「見学デー」には子どもたちやファンが詰めかけました。

古澤さん
「ブレーキとかもそうですけど、昭和初期くらいの路面電車がこんな感じなので、それにかなり近い機械となります」

左手でアクセル、右手でブレーキ。その日の人数や風の強さによって、動かし方が違います。古澤さんは、高校を卒業してすぐ入社し先輩から運転を教わりました。

古澤さん
「もともと小学生の文集に将来の夢は電車の運転手とか書いているくらい乗り物が好きだったので、ここを選びました」

同世代のゴンドラに愛着
火の山ロープウェイとの出会いは幼稚園のころ、家族たちと初めて乗りました。

古澤さん
「ゴンドラの海側の方に乗ってじーってこうやって景色見ていたのを今でも覚えているんで」

乗り物好きは今も変わらず、全国を飛び回っています。同じ年代を過ごした機械たちに、愛着もあります。

古澤さん
「ゴンドラが46歳で、自分48歳なんで、2歳しか変わらない」

機械は駅舎と共に解体されることになっています。

市内から訪れた人
「アナログな形で長い間動いていたものが、形も変わるしさみしい」

東京都から
「16年前に初めて乗りに来て東京なんで遠いんで。昭和がそのまま残っていたんで、それがなくなっちゃうのは本当はがっかり、すごくがっかりです」

手作業で安全運行支える


66年間無事故だったのも、古澤さんたちがメンテナンスを欠かさなかったからです。月に一回、ゴンドラの上に乗り、手で油を注ぎました。ロープに傷がないか、油が切れていないか。危険と隣り合わせですが、機械ではムラが出るので手作業です。

運行終了まであとわずか。

古澤さん
「お客さんが笑顔でニコニコしながら乗ってくれるとうれしい」

迎えた最終日。
古澤さん
「いつも通り、無事で終わってくれるといいですね、無事故で」
最後の朝礼が始まりました。

古澤さん
「おはようございます。いつも通り、みんなが自分の仕事を最後まで安全に行ってください。では本日、最終日ですけど、よろしくお願いします」

スタッフ一同
「よろしくお願いします」
ガイドさん
「きょうも一日安全にみなさんに喜んでいただけるといいなと思います」

大勢のファンが別れ惜しむ

朝から、多くのファンが訪れました。チケット売り場には始発の午前10時前から、乗車を待つ人の長い列ができました。

9時前から並ぶ親子(福岡県から)
母親

「いい席とれるからやろ?」
子ども
「うん、特等席とれるから」
母親
「ほぼ同い年のゴンドラなので“がんばったね”、という感じですね」

北九州市から
「4・5年ぶりくらいかな。小学校のときくらい遠足でよく来てましたので」

始発の便には定員30人のところ、およそ90人が集まりました。

ガイド・元川敦子さん
「1回目はどれくらい前に?」
男性
「覚えてないくらい」
元川さん
「そうですか!きょうはお子さんと?ありがとうございます。最終日にお越しいただきまして本当に」

空中散歩を楽しんだ人たちはみな満足そうです。

小学1年生(市内から)
「景色がよくて楽しかったです」

父親
「66年の最後、乗れてよかったと思います」

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