◆「正直に言うと…」
見学会に参加した人たち＝10日、東京・明治神宮外苑で（森本智之撮影）
10日、曇り空の明治神宮外苑。再開発の見直しを求めてきた住民たちが、木の伐採が進む様子を周辺から見学する会を開いた。「50人も集まれば」と控えめに話していたが、記者の目算で200人近くが参加した。 主催者としてマイクを握った一人に、近くに住むグラフィックデザイナーで美術家の角井典子さんがいた。計画を知った3年前から見直しを求めてきた。 伐採が始まり、再開発は引き戻せない地点を越えたようにも見える。なぜ発言を続けるのか。
見学会で話す角井典子さん＝10日、東京・明治神宮外苑で（森本智之撮影）
「正直に言うと意地になってるところがあるかもしれない」と冗談めかした後で、音楽家の坂本龍一さんの名前を口にした。「坂本さんたちと活動していたころから、気持ち悪い、許せないと思ったものに、表現者は声を上げなければいけないと思ってやってきた」◆「自分たちの意見が全く反映されないところで決まるのは、不条理」
坂本さんは昨年3月に亡くなる直前まで、都知事らに再開発の見直しを求めた。「この樹々は一度失ったら二度と取り戻すことができない自然です」。そのメッセージに共感が広がり、没後、村上春樹さんや桑田佳祐さんら文化人も背中を押されるように反対の声を上げた。角井さんは社会運動に積極的に関わった坂本さんらと、原発などを巡る運動でも共にしてきた。 「坂本さんは上から指示を出すのではなく、平らな所でみんなと一緒に手を動かす人だった。もし坂本さんがいたら、この場で私たちと一緒に声を上げてくれたと思う」と話し、こう続けた。
伐採される樹木＝12日、東京・明治神宮外苑で（大澤暁さん提供）
「外苑の再開発は事業者や都の職員らにとっては、仕事として関わっているだけかもしれない。でも、私たちには生活環境が大きく変わる、人生の形が変わるような出来事。そんな大事なことが自分たちの意見が全く反映されないところで決まるのは、不条理じゃないですか」◆「ちょっとでもドアが開くタイミングはきっと来る」
別のクリエーティブディレクターの女性も坂本さんたちと行動してきた一人だ。坂本さんが亡くなった後の昨年6月、ウェブサイト「坂本龍一と神宮外苑を心配する」の立ち上げに関わった。「坂本さんの遺志を引き継ぐのではなく、一人ひとりが再開発の課題を考え、それぞれ行動するきっかけとなる『道具』を提供することを目的とします」。プレスリリースでこう意思表明した。 女性は、その意図を「坂本さんは自分に付いてきてほしいわけではなく、それぞれが考えて行動する感覚を大事にしていたから」と話した。思い出に残っているのは、坂本さんと選挙の投票率を上げる運動に関わった時のこと。坂本さんの発信力はすばらしく、手応えがあった。だが、結果は伴わなかったという。 記者が初めて女性と会った昨年夏、坂本さんとの思い出を問うと、開口一番、「私は大きな挫折をしたんです。あの時、世の中は変わらないと思った」と話してくれた。記者にとってこのひと言は印象に残った。では、なぜいまも運動を続けているのか。見学会に来ていた女性に尋ねると、こう答えた。「ちょっとでもドアが開くタイミングはきっと来る。そのチャンスが来るのを私は待っているんだと思います」◆伐採許可はまだ計画の一部約70本だけ
米国人コンサルタントのロッシェル・カップさんは...残り 1573/3010 文字
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