来年4月に開幕する大阪・関西万博では、シンボルの巨大屋根に福島県浪江町で製造された、県産の木材が使われています。「故郷の林業を守り続ける」、男性の取り組みを追いました。

半年後に迫った大阪・関西万博。161の国と地域が「いのち輝く未来社会のデザイン」を発信します。会場のシンボルとなるのは、巨大な大屋根リング。1周およそ2キロ、高さ20メートルにのぼる世界最大級の木造建造物です。3000万人来場者を出迎えるこの巨大リングには、実は、福島県産の木材が使われています。

万博のシンボルを手がけるのは、浪江町にある「ウッドコア」です。

朝田英洋さん「福島県で作った木材、ウッドコアから作った製品を、大勢の日本国内、国外の方々に見て頂いて、大阪万博がすばらしいものとなればと思う」

共同設立者の一人、浪江町にある朝田木材の朝田英洋さん(56)は、県産木材の需要拡大と林業再生を目的に2018年、ウッドコアを立ち上げました。

朝田さん「(震災以前から長く)木材に関わってきた以上、やはり林業再生、また、雇用創出と、雇用、林業のどちらもやっていかなければならない」

原発事故発生 同業者が次々廃業する中で…

ウッドコアで製造するのは、板状の木材を貼り合わせた「大断面集成材」と呼ばれるもの。その特徴は、「強度」と「耐久性」です。

天然木材は、木目などの影響で、反って変形しやすい特徴があります。一方、集成材は、板状の木を貼り合わせることで、木の持つ反発を減らし、強度が維持できるメリットがあります。

ウッドコアでは、県産木材を中心に、年間1万5000立方メートルを製造しています。

朝田さん「(原発事故で)人口がゼロになった時点から、13年が経ったが、その中でこういった工場ができて、福島の復興をアピールしたい」

原発事故で一時、全町避難を余儀なくされた浪江町。朝田さんは、その3年後、110年あまり続く朝田木材を継ぐため、家族と離れ、故郷に戻ることを決意しました。

朝田さん「先祖からやってきた木材を使う商売を私の代で失くしていいのかという思いがあった」

しかし、原発事故の影響で県産木材に対する風評被害は根強く、町内にあった同業者は次々と廃業していきました。

朝田さん「お客さんすらいなくなってしまったところから始まっているので、どうやってお客さんを作るかが一番大事というか苦労したところですね」

心の支えになったのが、母・邦子さんのメッセージでした。

朝田さん「これは私の母が震災後、こういうのが大好きで(作った)」

会社に飾られているフェルトに刺繍されたのは『ガンバレ、朝田木材産業』という文字。「家業」そして「故郷の林業」を守り続ける。国内有数の木材製造拠点を目指し、朝田さんは、郡山市の企業と共同でウッドコアを設立しました。

最先端設備導入「本当の日本一目指して」

工場では、珍しい技術が導入されています。

朝田さん「今までは接着剤を付けて8時間以上かかっていたプレス工程が、約10数分で完成となります」

海外の最先端設備を導入し、作業時間は通常の50分の1に短縮。それによって集成材の大量生産が可能となり、会社設立以降、事業規模を拡大しています。ウッドコアで製造された集成材は、道の駅なみえなど県内外の施設に使われています。

さらに、福島の復興を世界に発信しようと、今回、大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」の梁にも採用されました。

朝田さん「いいもの、いい製品を作れるようになったので、万博のリングもすばらしいものをこの工場から出荷できたと思っている」

故郷で林業を続けることが自分の使命だと話す朝田さん。福島の林業発展を目指し、これからもメイドイン浪江の木材を世界に届けていきます。

朝田さん「本当の日本一を目指して、従業員一同みんなと頑張って、本当の日本一になりたいと思う」

福島県などによりますと、双葉郡で木材に携わる事業所の数は、いまは震災前の半分ほどに留まっているということです。こうした中で、朝田さんは「引き続き、浪江町の雇用創出にも力を入れて、町の活性化に貢献したい」と話していました。

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