宇宙が地球の喫緊の課題を解決し、経済に大きな影響を与える可能性があるとして、近年、宇宙ビジネスが急速に発展し、世界中から注目を集めている。

SPACETIDE代表理事の石田真康さんにTBS報道局の豊島歩解説委員が宇宙ビジネスの最前線について伺った。

UFOからUAPへ 安全保障の新たな局面

アメリカ国防総省はUFOを含めたUAP(未確認異常現象)に関する調査チームを設立。2023年には議会で公聴会が開かれるなど、UAPは国家安全保障上の関心事として具体的な対応が進んでいる。

石田氏は「UAPは、例えば中国やロシアなどの敵対国の高度な偵察技術や、自律的に行動するドローンである可能性もあるため、安全保障の観点から調査を行う必要がある」と指摘する。

アメリカにおけるUAP調査チーム設立やNASAの取り組みなどを背景に、日本国内でも議論が高まったとして、ことし6月に超党派の議員連盟「UFO議連」が発足した。石破茂氏や小泉進次郎氏が名を連ねている。

地球外生命体の探索も、米中はじめとする各国が本格的に探査に乗り出している。

10月にアメリカのNASAが、地球以外に生命が存在できる環境があるかを確認するために、木星の衛星に向けて探査機を打ち上げた。
また中国の宇宙当局が、生命が住める惑星や地球外生命体を探求すると明記した中長期計画を発表した。
米中が国家レベルで、地球外の生命体を探求している現状がうかがえる。

2017年に発見された天体「オウムアムア」は、その特異な形状と軌道から、地球外文明が送り出した探査機ではないかという説を米ハーバード大学の天文学科長が唱え、話題となっている。

石田氏はこのオウムアムアに関しては次のように指摘する。

「正体は未だ不明であり、彗星、小惑星の破片など様々な説がある。より詳細な調査には探査機の打ち上げが必要だが、莫大な予算と10年単位の開発期間を要するため、現実的には難しい」

宇宙ビジネスの最前線:衛星開発と利活用の現状

人工衛星の打ち上げ数は年々増加し、特に商業衛星の増加は顕著で、イーロン・マスク氏率いるスペースX社の通信衛星サービス「Starlink」はその代表例と言える。

「衛星の開発費、製造費、打ち上げ費の劇的なコスト低下が、世界的な衛星数の増加の主要因」

例えば、数十キロ程度の小型衛星であれば1億〜数億円、100kg程度の小型衛星でも10億円強で開発可能となっており、10年前と比較して大幅なコストダウンが実現している。

これにより、これまで宇宙開発に参入できなかった国や中小企業も衛星を所有・運用できるようになり、宇宙ビジネスの裾野が急速に広がっているという。

Starlinkは数千基の衛星を低軌道上に展開し、2024年9月時点で70カ国以上に高速インターネットサービスを提供、ユーザー数は約400万人に達している。

地上から見たStarlink衛星

石田氏はこのStarlinkを「異常値に近い」と表現し、その衛星数の多さが宇宙開発の現状に大きな影響を与えていることを強調した。

また、衛星軌道の光害問題にも触れ「Starlink衛星の太陽光反射が天体観測に影響を与える可能性があるため、反射率を低減する表面処理技術の開発などが進められている」と現状を説明した。

SDGsへの貢献:宇宙技術が地球規模の課題解決を支援

「SDGsの17の課題全てに衛星技術が貢献できる」

石田氏はこう断言する。
衛星技術は、地球規模の課題解決に貢献するだけでなく、宇宙産業にとって新たな顧客と市場の獲得にも繋がる。

「SDGsには、宇宙産業が長年求めていた顧客の具体的な課題が網羅されている」

例えば、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」においては、インターネット接続環境の改善が不可欠となる。世界人口約82億人のうち、約30億人がインターネットにアクセスできない状況にある中、衛星インターネットはデジタルデバイドの解消に大きく貢献する。

石田氏はインドの事例を挙げ、13億~15億人にものぼる人口を抱えるインドでは、国土の広さから地上インフラ整備が困難なため、政府が17~18基の通信衛星を運用し、遠隔医療や遠隔教育に活用していることを紹介した。

数百の病院と5〜6万の教育施設が衛星通信網で繋がれており、地方の医療・教育アクセス向上に大きく貢献しているという。

目標2「飢餓をゼロに」では、衛星データ活用による精密農業が食料生産の効率化に貢献する。

青森県では、衛星データを利用したスマートフォンアプリで、農作物の生育状況の確認や最適な刈り取り時期の判断が可能となり、高品質な米の生産を実現している。

石田氏は「農業は宇宙技術、特に衛星データ利用の歴史が長い分野」だとし、農作物の生育状況把握や肥料散布時期の決定などに衛星データが活用されてきたと説明した。

目標11「住み続けられるまちづくりを」においては、防災・減災の観点で衛星技術が重要な役割を果たす。

能登半島地震では、地殻変動解析、土砂移動箇所の特定、広域火災発生地域の特定などに衛星データが活用され、迅速な被害状況把握と復旧活動に貢献した。

洪水発生時にも、衛星データによる浸水域の特定は、ヘリコプターや地上部隊による詳細分析を支援する重要な情報となる。

「衛星データ単独ですべてを解決できるわけではないが、他の技術と組み合わせることで、より効果的な解決策を導き出すことができる」

宇宙ビジネスの課題:倫理、安全保障、持続可能性

ただ、宇宙ビジネスの発展に伴い、倫理、安全保障、持続可能性といった新たな課題への対応が求められている。

Starlinkのウクライナ紛争における活用は、商業衛星の軍事利用をめぐる倫理的問題を提起した。

「従来、安全保障用途の宇宙システムは政府や軍が保有・運用していたが、近年は民間のサービスを軍が利用するケースが増加している」

ウクライナ戦争では、ロシア軍、ウクライナ軍ともにStarlinkを利用しているという現状があり、民間企業による宇宙サービス提供のあり方が問われている。

宇宙空間の安全保障については、アメリカ宇宙軍の創設(2019年)や中国の宇宙強国政策など、各国の軍拡競争が激化している。

アメリカ国防総省は2024年8月、中国が打ち上げた人工衛星が他国の衛星を攻撃できる宇宙兵器である可能性を示唆した。

これは、2007年の中国による自国衛星破壊実験以降、宇宙空間における軍事利用への懸念が高まっていることを示すものだ。

「宇宙の安全保障は、『宇宙による安全保障』と『宇宙空間の安全保障』という二つの側面がある」

石田氏は衛星などの宇宙システムの重要性が増すにつれ、攻撃対象となるリスクも高まっていることを指摘した。

また、宇宙デブリ問題は、運用中の衛星や宇宙ステーションへの衝突リスクを高める深刻な問題である。

NASAによると、把握されているだけでも2万5000個以上のデブリが地球周回軌道上 に存在し、アメリカ宇宙統合軍によると、今年8月に中国が打ち上げたロケットの分解で新たに300個以上のデブリが発生した事例もある。

「デブリは秒速数キロという速度で移動しており、運用中の衛星や将来建設されるであろう民間宇宙ステーションへの衝突は大きな脅威となる」

デブリ監視体制の強化、デブリ除去技術の開発、デブリ発生抑制のための国際的なルール作りなど、宇宙空間の持続的な利用にはデブリ問題への対策が不可欠となる。

月面探査:科学的探求と将来的な資源開発

月の探査で、いま世界で大きく2つの計画が進んでいる。
アメリカ主導のアルテミス計画、それに中国主導のILRS計画だ。

アルテミス計画には2024年10月時点で日本を含む47カ国が署名、ILRS計画には13カ国が参加している。

石田氏は「これらの計画の最大の動機は科学的探求」だと説明する。月の成り立ちや地球の起源解明など、科学的な知見の獲得が月面探査の主要な目的となっている。

アルテミス計画では月を拠点とした火星探査も構想されており、月の科学的探査は将来の宇宙探査における重要なステップとなる。

しかし、月面における資源獲得競争という側面も無視できない。

石田氏は「月の極域に存在する水は、電気分解によって水素と酸素に分解し、ロケット燃料として利用できる可能性がある」と説明する。これは、月面を宇宙探査の拠点とする上で非常に重要な要素となる。

ただ月の水の埋蔵量や採掘方法、利用に関する国際的なルールなどはまだ未確立であり「現時点では資源獲得競争というより、将来的な競争に備えたルールメイキングをしている段階」だと石田氏は述べている。

日本は2024年1月に無人探査機「SLIM」による月面着陸に成功し、アメリカ、旧ソ連、中国、インドに次いで5番目の月面着陸成功国となった。

また、2024年10月にはJAXAが2030年代に日本人宇宙飛行士2名を月面に着陸させる計画を発表しており、アメリカ以外の国では初の月面着陸となる予定だ。

石田氏は宇宙探査の難易度について言及し、計画の遅延の可能性を示唆しつつも、日本の宇宙開発における今後の進展に期待を寄せた。

月面旅行の実現可能性については、石田氏は「現在、高度100kmまでの宇宙旅行は18歳から90歳まで幅広い年齢層の人が体験している。しかし、月旅行はより長時間の宇宙滞在と厳しい訓練が必要となるため、参加できる年齢層は狭まるだろう」としている。

月面旅行にかかる費用については「1kgの物資を月に送るだけでも1億円から2億円かかるため、人を送る場合は安全対策などのコストも含め、さらに高額になる」と述べ、現時点では一般の人が気軽に月旅行できる段階ではないことを示唆した。

スペースエコノミーの未来:経済規模拡大と人類の成長

スイスに本部を置く国際機関「世界経済フォーラム」は2035年までにスペースエコノミーの規模が約1.8兆ドルに達す ると予測しており、日本政府も2030年代の早い時期に約8兆円の市場規模を目指している。

宇宙産業は新たな雇用創出、技術革新、経済成長をもたらす可能性を秘めており、各国政府による戦略的な投資と政策支援が重要となる。

日本の宇宙関連予算は、2015年度の約3000億円から2024年度には約8900億円と約3倍に増加しており、政府の本腰の入れようが伺える。さらに、1兆円規模の宇宙戦略基金が設立され、民間企業の宇宙ビジネスへの投資を促進するための政策も進められている。

「日本政府が宇宙産業を重要な成長分野と位置付けていることの表れだ。宇宙産業が真に社会に貢献するためには、自動車産業や通信産業のような数百兆円規模の巨大市場に成長する必要がある」

また、石田氏は人類の持続的な成長には空間拡張が必要だと主張する。

「物理的な空間拡張は宇宙とバーチャル空間しかない」

地球環境への負荷を軽減しながら経済成長を続けるためには、宇宙空間やバーチャル空間への進出が不可欠であり、宇宙開発は人類の未来にとって重要な役割を担うと話した。

宇宙から地球を見ることで...

宇宙開発は、科学的探求、経済成長、地球規模の課題解決といった多様な可能性を秘めている。

国際協力とルール作りを推進し、持続可能な宇宙開発を実現することで、人類は新たなフロンティアを切り開き、より良い未来を創造することができるかもしれない。

かつて、急に飛来した巨大なUFOに対して、各国が力をひとつにして戦うという映画があった。

その一方で、現実の世界は戦争や、自然災害、それに経済の悪化ということで苦しんでる人が大勢る。中には残念ながら亡くなってしまう方もいるという状況が続いている。

宇宙から地球を考えることで、そうした人たちが1人でも減るような、何か知恵みたいなものが見つかることを願いたい。

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