まさかの「搭乗拒否」…その理由は「パスポートのページ数が足りません」
10月のとある日。私はラオスの首都・ビエンチャンに向かうため、北京市郊外にある大興国際空港で搭乗手続きを行っていた。JNN北京支局のカメラマンである私は北京を拠点に中国国内のみならず周辺諸国の取材に日々飛び回っている。今回ラオスでは石破新総理と中国の李強首相の初めての首脳会談が行われる。中国深圳市で男子児童が死亡する事件が起きた直後の首脳会談。石破総理の対中姿勢が問われる会談になる…。そんなことを考えながら搭乗手続きを行っていた私に、航空会社の職員が思いがけない一言を発した。
「パスポートの残りページ数が足りないため、搭乗券は発券できません」
北京に駐在して4年。中国の居留ビザに加え、訪れた諸外国のビザやスタンプで私のパスポートはいっぱいだった。何もスタンプが押されていない、「査証ページ」は残り1ページ。慌ててスマホでラオスの入国条件を調べると確かに「査証欄の余白が2ページ以上」と書いてある。
「やばい…ラオスに行けなかったらどうしよう」。トラブルは常に予期しないところで起きるというがまさかこんな落とし穴が…。何度パスポートを見返しても余白は1ページしかない。でも考えようによっては余白は1ページあるんだし、ほかのページにも出入国スタンプを押す隙間はまだたくさんある。残されたたった1枚の余白ページを指さしながら、私は必死に掛け合った。
私の剣幕に押された航空会社の職員はラオスの出入国管理局に「余白1ページで大丈夫か」と問い合わせるものの、返事はなかなか返ってこない。迫りくる搭乗時間。一緒に出張にいく同僚たちの憐れむような、あきれたような目線が痛い。搭乗時間まで40分を切ったところで同僚たちには先に搭乗口に向かってもらい、ひとりカウンターでラオス側の返事を待つ。搭乗時間まであと20分。半ば諦めていたそのとき、航空会社の職員が「『入国できない場合は自己責任とする』という旨の書類にサインをしなさい。もし入国できなかった場合は知らないよ」と言いながら搭乗券を発券してくれた。これまで飛行機に何百回も乗っているが、これほど搭乗券が輝いて見えたことはない。搭乗券を握りしめ、慌てて飛行機に飛び乗った。
「追記」ページにスタンプはだめなの? 国によって違う「残存査証ページ」の条件
飛行機に乗ること数時間。ラオスの首都、ビエンチャンの国際空港に降り立った。同僚が難なくアライバルビザをゲットし、入国審査を通り抜けていく中、決死の覚悟で担当官と対峙する。実はラオス出張の後に別の海外出張が控えていた。再び搭乗拒否される事態はどうしても避けたい。そのためにはこの残されたたった1枚の余白ページを死守したかった。「別のページに貼ってくれないか」。何度も懇願するが、無情にも入国管理官は貴重な余白ページに巨大なビザを容赦なく貼り付けた。これで「余白ゼロ」。とはいえ、なんとかラオスに無事入国することができた。
思わぬ事態に冷や汗をかいた私はこれを機にパスポートの「余白ページ」について調べてみることにした。
まず気になったのは「何ページ余白があれば大丈夫なのか?」
これは国によってバラバラであることがわかった。日本航空のHPによるとインドは「2ページ以上」、カンボジアは「1ページ以上」、エストニアは「連続3ページ以上」。では最低何ページの余白があればどの国でも問題なく入国することができるのか?日本外務省旅券課の担当者によると「見開き3ページの査証ページの空白」があれば問題はないという。
ところで、パスポートには「査証ページ」のほかに「追記ページ」というものがある。私は顔写真ページのすぐ後ろに数ページあるこの「追記ページ」もいざという時にはビザを貼ったりスタンプを押すために使えるものと思い込んでいた。航空会社の職員にも「追記ページ」を見せ「こんなに余白があるじゃないか」と迫ったし、ラオスでもアライバルビザをこの「追記ページ」へ貼り付けてくれと入国管理官にお願いしたがいずれも「これは査証ページではない」と拒否された。終始解せない気持ちでいた私。では「追記ページ」は何のためにあるのだろうか?
外務省旅券課の担当者に聞くと「申請者の個人情報に変更が生じた時に、外務省や領事館でそのことについて記載するページ。ビザや出入国スタンプを貼ることはできません」
追記ページがあるからといって安心してはいけないのだ。
無くなった「増補制度」。それに代わってはじまった「残存期間同一旅券」
ラオスには無事に入国したものの、すぐ翌週に別の海外出張が控えていた。すでに余白ページはなし。果たして入国できるのか?もはや取材どころではなく、パスポートのことばかりが気になってしまう私。眺めてもページ数が増えるわけでもないのに気が付けばパスポートを取り出してじっと見てしまう。そこで思い出したのが、パスポートの「査証ページ」を「増補」するサービスのことだ。10年パスポートの「査証ページ」は44ページ。しかし海外渡航が多いビジネスマンなどはあっという間に「査証ページ」が無くなってしまう。そんな人のために外務省はかつて「増補制度」、つまり「査証ページ」を追加で40ページつけてくれるサービスを行っていた。そうだ、この手があるじゃないか!喜び勇んで調べてみると、なんと2023年3月に廃止されていた。いったいなぜ?
外務省旅券課の担当者によると、増補されたページだけ取り外されて使われたり、増補ページから不都合な出入国スタンプを取り外してしまうなどトラブルが多かったためだという。国際的にも増補制度を廃止する国が増えているそうだ。
もちろん利便性が下がるなど批判的な意見もあるようだが、いまは増補制度の代わりにパスポートの残り期間と同期間のものを新たに発行してもらえるようになった。各自治体のHPを見ると、パスポート交換申請の目安は「未使用の査証欄がおおむね見開き3ページ以下になったら」という記載もみられるが、数カ国を回る出張を予定していて査証ページが足りなくなるのではと不安、などの諸事情を窓口で伝えれば柔軟に対応してくれるとのことだ。ただし、パスポート番号が変わってしまう、という問題も発生する。
2025年から変わるパスポート発給期間 はやめの更新を
実は2025年3月からパスポートが変わる。顔写真のページが個人情報が含まれるICチップ入りのプラスチック製のページと一体化することで偽造されにくいものになるのだという。これに伴い、パスポートの申請から受取までの日数が長くなる。今は申請から受取まで最長1週間ほどだが、来年の3月以降、在外公館で申請する場合はパスポートが手元に届くまでに2〜3週間かかるようになるという。
その理由は「作成拠点の集約」。いままで各都道府県や在外公館でパスポートは印刷されていたが、来年から国立印刷局のみの印刷に集約するのだという。なぜ作成拠点を集約するのか外務省に問い合わせると、旅券の国際的な基準をつくるICAO(国際民間航空機関)がパスポートの偽造対策を強化するため、各国にパスポートをつくる拠点を1、2か所に集約するように呼びかけていて、今回それに合わせて変更を決めたという。
これまで世界中の国々を訪れ、旅好きを自称していた私であるが、まさかパスポートにこんな落とし穴があるとは思ってもみなかった。これから旅をしようとしているみなさん。
・査証の空白ページが見開き3ページ以上あること
・有効期限が6か月以上残っていること
これらの条件を満たしているか、出かける前に十分確認してほしい。私のように出発間際、空港で冷や汗をかくことにならないためにも。
JNN北京支局 室谷陽太
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