ILLUSTRATION BY LOGAN GUOーSLATE

<トランプ暗殺未遂事件は「予言されていた」──なぜ福音派の人々は、3回の結婚歴があり女癖も悪い億万長者を崇め始めたのか>

ミトンの形をしたアメリカ・ミシガン州の親指部分で、ある蒸し暑い夕方、預言者を名乗る人物が白いテントの下で700人のキリスト教徒に保証した。あなた方は死を逃れられる、と。

どうやって? 米大統領選の激戦州であるこの州で、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ前大統領を勝たせることで、だ。


理由は単純明快。ここに集まったキリスト教徒は全員、このテントから出る頃にはトランプ陣営の選挙戦を手伝うことを自らの使命とするようになる。その任務に取り組んでいる間は死ぬ心配はない。神は自らが与えた使命を果たすまで、そのしもべを天に召すことはないからだ。

「死が迎えに来たら、自分にはまだ果たすべき使命があると言えばいい」──自称預言者のランス・ウォルナウは聴衆にそう教えた。

11月の大統領選本選を控え、激戦州を回って宗教イベントを催す「勇気のツアー」。ここミシガン州ハウエル郊外は3つ目の巡回先だ。

ツアーを主催するウォルナウはテキサス州在住の60代。セールストークが得意なキリスト教福音派の伝道師だ。3日間にわたるイベントは、戦いへの呼びかけであり、選挙戦略会議であり、そして何より古風なペンテコステ派のテント集会である。

このイベントはまた、アメリカのキリスト教徒の間で急速に勢力を拡大しつつある好戦的な宗教右派のパワーを見せつける場ともなった。

大統領選の結果に憤慨して連邦議会議事堂周辺に集まったトランプ支持者(2021年1月6日) BRENT STIRTONーGETTY IMAGESーSLATE

トランプはアメリカの宗教改革に重要な役割を果たし、来るべき「大覚醒(信仰の復興)」のカタリスト(触媒)となる運命にある──そう信じて疑わない信徒たちがここに集まっている。

彼らに言わせれば、トランプは現代版のキュロス2世だ。そう、強大な帝国を打ち立て、ユダヤ人を「バビロンの捕囚」から解放して約束の地に帰還させたアケメネス朝ペルシャの開祖──無信仰でありながら、旧約聖書にその名を残した偉大な帝王の再来だというのである。


今年7月に起きた暗殺未遂事件で、トランプが血を流しながらこぶしを突き上げ、無事をアピールしたことで、そうした見方がますます強まった。今ではここに集まった信徒たちは、トランプの行く手を阻む者がいれば、それが何者であっても、「撃破すべき邪悪な勢力」と見なす。

福音派になじみがないアメリカ人は、こうした宗教右派の運動がこの国のキリスト教信仰の在り方を急速に変えつつあることに気付いていないだろう。政治とは、邪悪な勢力と神の軍隊との戦いにほかならない。今やそう信じてトランプを全力で推すキリスト教徒が大勢いるのだ。

ウォルナウは「今世紀に入ってこれまでに登場した最も重要な福音派の政治的な神学者」かもしれない。私にそう教えてくれたのは宗教学者のマシュー・テーラーだ(この記事のためにウォルナウに取材を申し込んだが受け入れてもらえなかった)。

新カリスマ運動の集会で指導者たちの話に耳を傾ける福音派の信者ら。彼らにとって、「神に選ばれた」トランプを再選させることは自分たちの使命だ(次ページ以降の写真も同じ集会から) MOLLY OLMSTEADーSLATE

ウォルナウの教えに強く共鳴しているのは「新カリスマ運動」の担い手たち、つまり意味不明な「異言」(話者が知らない言語)で祈り、聖霊が授ける予言や癒やしを信じている一部の福音派の信徒たちだ。

最終的には世界支配を狙う

彼らの多くが今も「盗まれた選挙」と呼ぶ前回の大統領選から4年。ウォルナウとその追随者たちは今度こそ「神に選ばれしトランプ」を勝たせようと、手段を選ばぬ構えだ。筆者はその運動の行方を見極めるためにミシガン州にやって来た。


テント集会の1日目、集会が開かれる地元の教会のドライブウエーに車を乗り入れると、満面の笑みを浮かべた子供たちと女性たちが「あなたが来てくれて、イエス様は大喜びです」などと書いた、色とりどりの手作りのサインで迎えてくれた。

駐車待ちの車の長い列ができていて、ボランティアがそばの空き地に誘導してくれたものの、車を止めるまでに13分もかかった。

会場であるフラッドゲート教会は、アトランティック誌の記事によると、この地域では声高な政治的主張で知られる。教会員の圧倒的多数は新参者で、新型コロナウイルスの猛威を否定する牧師のビル・ボリンの妄言に共感して集まった人たちだ。

ボリンはアトランティック誌の取材に応え、「うちの教会の多くのメンバー」が2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃に参加するため首都ワシントンに向かったと話している。

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そんな教会でも、ウォルナウが引き付けるタイプの福音派には、さすがに不慣れなようだった。

トランプ支持団体のグッズ販売テントがいくつかあったが、会場を見回しただけでは政治的なイベントという感じはしない。メインテントには折り畳み椅子がずらりと並び、周囲はまるで音楽フェスのような雰囲気だ。


肌にまとわりつくような熱気の中、スピーカーから大音量でクリスチャン・ロックが流れている。参加者は白人が圧倒的に多い(全部ではない)。意外にも高齢者に交じって、幼い子供連れの親たちが目につく。晴れ着姿は見かけず、老いも若きもTシャツにショーツのくだけたスタイル。

テントの左手で円陣を組んで祈る人たちがいる。祈りが終わると、そのうちの1人がショファル(ユダヤ教で使われる角笛)を吹き鳴らして、メインテントに人々を集めた。

イベントが始まって1時間後、ウォルナウは完璧な笑顔でステージに現れた。聴衆をあおり、左派を攻撃して、人々の不安(「地獄は私たち以上に戦いの準備ができている」)と希望(「私は、トランプが次の大統領になるという知らせをイスラエルで聞いたのだ」)をかき立てた。

しかし、ウォルナウには温かみもあった。彼は世界経済フォーラムなどグローバリストの脅威について不満をぶちまけたかと思うと、ウインクをしてちゃめっ気たっぷりに言った。「皆さんは教養のある陰謀論マニアですね」

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それから1時間半、ウォルナウは聴衆(そして、彼によるとライブ配信を見ている10万人の視聴者)に向けて週末のセミナーの予告をした。

彼はキリスト教徒として「霊的戦い」に従事するように呼びかけた。これは、熱心な祈りや賛美、信仰の表明を通じて悪の力を打ち負かすという宗教的実践の一種だ。新カリスマ運動はこうした儀式を、自分たちが戦う悪に対し身体的に、かつ接近して行うと、より効果的としている。


だから20年の大統領選の結果が公式に認定される前に、ウォルナウの運動の指導者たちは首都ワシントンを目指したのだ。

トランプの大統領選出を妨げる悪の勢力に、できるだけ近づいて祈らなければならないと彼らは考えた。ほかにも多くの教派のキリスト教徒が、この使命に駆られてワシントンに向かった。

ウォルナウのような預言者や伝道師は、サタン(悪魔)の軍勢と戦う神の軍隊の将軍だ。彼らは信者を大量に動員し、超自然的な領域で戦略的な戦いに挑む。

ペンテコステ派の教会の中には、フリーメイソンやニューエイジの精神世界、悪魔主義といったオカルト的な力に対し、霊的な戦いを挑むという考え方もある。

新カリスマ運動もオカルトとの対決を楽しんでいるところはあるが、彼らの真の狙いは国家レベル、最終的には地球レベルで、俗世を支配することだ。祈りによって市民や社会の制度から悪魔の力を一掃し、キリスト教社会を実現して維持する人々で埋め尽くそうというのだ。

ウォルナウは愛に満ちた言葉で1日を締めくくった。「主の名において、私はサタンを退ける。彼らからその手を離せ」と厳かに祈り、参加者に隣に座っている人を抱き締めなさいと語りかけた。

遠くの雲に稲妻が走った。ウォルナウはキーボードの前に座り、黙示録の一節を引用した軽快な即興演奏で退場を促した。ぞろぞろとテントを出ていく誰もが高揚していた。


トランプと相思相愛になって

最初の「大覚醒」は、18世紀から19世紀にかけてアメリカ植民地と合衆国に広まった信仰復興運動であり、キリスト教福音派をこの国の永続的かつ強固な勢力として確立させた。

ウォルナウが新たに始めようとしている「大覚醒」は、約30年前の福音派のある試みにさかのぼり、パンデミックの最中に勢いを増した。

1990年代に福音派のあるグループが、キリスト教における新たな革命を思い描いた。彼らはそれを「新使徒的改革(NAR)」と呼び、神の声を直接聞くことができて、神の力を日常的な奇跡として伝える伝道師や預言者を中心に、礼拝を再編成しようと考えた。

これらの伝道師や預言者の大半は大きな組織や教派に属していなかった。独自の教会を持つ者もいれば、ウォルナウのように集会やテレビ、ソーシャルメディアを通じてメッセージを伝える巡回説教師もいた。

しかし、彼ら自称預言者は、執拗に政治的主張を展開した。悪魔が法律や公立学校、罪深い映画などを通じてキリスト教徒を傷つけようとしていると警告し、聖霊を呼び出して悪魔を追い払う方法を信者に教えた。そして、世俗の世界を征服して悪の勢力から取り戻そうと訴えた。

NARは長年の間、キリスト教福音派の非主流派にすぎなかった。悪魔の憑依のように扇動的な話や、教会と国家の分離を完全になくすという強硬な主張を、快く思う人はほとんどいなかった。しかし、トランプの大統領選で全てが変わった。


トランプが2016年の大統領選に出馬した当初、福音派の主流派のほとんどは、3回の結婚歴があり女癖の悪い億万長者に警戒心を抱いていた。

しかし、彼のテレビ伝道者のような堂々とした態度にNARの指導者たちは感銘を受け、すぐに称賛し始めた。特にウォルナウは早くからトランプを支持しており、傾倒する説明として神学的に都合のいい理屈を並べた。

トランプは大統領に就任すると、ウォルナウを含むNARの著名なメンバーをホワイトハウスに招待した。

トランプは教義的な問題はほとんど知らなかったが、忠誠心を見抜く才能があった。彼がNARを公に後押ししたことがNARの指導者を後押しし、彼らはトランプを神に祝福された人物だと宣伝した。

宗教エクスタシーの行き先

2日目の朝、私は暑さ対策に水のボトルを3本用意して、再びフラッドゲート教会に行った。既に音楽が鳴り響き、ウォルナウは「勇気のツアー」のロゴが入ったシャツとグレーのジーンズ姿で、信者たちに手を置いて祝福していた。

ステージのすぐ前では、10人ほどの参加者がウォルナウの周りに集まり、聖油で清められるのを待っていた。ウォルナウが1人の女性の首の後ろをつかみ、額と額を合わせてつぶやきながら祈る。


そして突然、彼女の頭を両手でつかみ、額に息を吹きかけると、女性はまるでハリケーンの強風にあおられたかのように信者らの腕の中に倒れ込んだ。女性は、崇高な聖霊の存在に圧倒された別の信者4人と並んで、柔らかな草の上にそっと横たわされた。

こうした宗教的エクスタシーが、セミナーが始まる前に見られたことに私は驚いた。程なくしてウォルナウが、この日最初に演説するビル・フェデラーというキリスト教ナショナリストの歴史学者を紹介した。

彼の米国史に関するプレゼンは退屈で、誤解を招くような主張(歴史的なリンチの多くは、黒人に選挙権を登録させた共和党員を標的にしたものである)や、全くの嘘(23年のカリフォルニア州の生殖医療に関する法案は、生後28日目の乳児を殺すことを認めている)が満載だった。

フェデラーの後には、アメリカ・ファースト政策研究所、ターニングポイントUSAフェイス、マムズ・フォー・アメリカ、「MAGAブラック」の帽子を売る黒人保守派グループの代表らが続いた。

イベントに参加したもう1人のカリスマ預言者、マリオ・ムリロはこう語った。「もはや保守対リベラルではない。共和党対民主党でもない。善対悪だ」


ムリロはウォルナウよりも深刻な口調だった。ヒゲをたくわえ、険しい顔つきのムリロは、2日目の夜に行われた礼拝のメインセッションを指揮した。

自己紹介の中で彼は、前夜にウィスコンシン州で、ある牧師のステージ4の癌が治ったという話を始めた。ムリロの話が終わると、むっとしていたテントの空気がそよぎ始めた。「私が涼しい風を求めたのだ」とムリロは言った。

「私たちはまさに南北戦争前のアメリカのような瞬間に生きている」と、ムリロは声を張り上げた。「虐待、不誠実、悪の全ての特徴が今、表れている」

「アメリカは罪を犯した」とムリロが言うと、「アーメン!」と聴衆が応える。

「アメリカは神を捨てた」

「アーメン!」と聴衆の声がさらに大きくなる。

「アメリカがまいた種を覆い隠すことはできない」「子供の性別を変えるためにメスを入れるなら、あなたは地球上で最低の人間だ」

私の周りにいる全員が立ち上がり、激しく手をたたく。

「彼らが私たちの子供たちにしようとしていることは、イエスの御名における戦争へと、私たちを目覚めさせる」とムリロは叫んだ。「子供たちを狙う悪魔たちに宣戦布告をしなければならない」

「予言された」暗殺未遂

周りを見渡すと、30分ほど前まで神の恵みについて楽しそうに歌っていた人々が、大声を出し、歓声を上げていた。誰かが後ろで叫んだ。「戦争だ!」

新カリスマ運動の預言者らによると、7月13日のトランプ暗殺未遂は予言されていた。


その4カ月前の3月14日、オクラホマ州の預言者が、間近に控えた日食の霊的な影響について話したポッドキャストのエピソードをYouTubeで配信した。35万9000人の登録者を持つ彼は、自分が見たビジョンについても触れている。

「トランプが立ち上がり、彼の命が狙われるのが見えた。弾丸が彼の耳の近くを通り、鼓膜が破れるほど彼の頭に近づいた」

トランプが実際に、暗殺未遂で耳を負傷しながらも生還すると、新カリスマ運動の支持者らは、この事件を「奇跡」の「証拠」として語った。

ウォルナウは後にフェイスブックでこう述べている。

暗殺未遂について知ったとき、「段ボールで作ったトランプの像を置いている」祈りの小部屋に行き、「祈りながらトランプの段ボールの耳を両手で包み込んだ」。その時はトランプがどこを撃たれたのかは知らなかったと彼は語った。

こうして、「トランプは神に選ばれた」ことは、信者たちにとって疑いようがなくなった。

ウォルナウとムリロは、信者に寄り添う真の信仰者のようだ。

しかし、戦略的なウォルナウは、重要なことも知っている。NARは、その大義を人間の絶望と結び付けることを続ければ、拡大し、社会の「7つの山」(家族、宗教、教育、メディア、芸術、経済、政府)により多くの足がかりを得ることができる。


ウォルナウは、驚くほど不正確なことや憎悪に満ちたことも発言する。しかし、アメリカの医療制度の残酷で複雑な請求システムや、経済的困窮、セーフティーネットの欠落に苦しむ彼の聴衆にとって重要なのは、自分たちが一瞬でも何かをコントロールできていると感じられることだ。

最終日の夜、ムリロはテント全体を癒やした。隣の人に手を置き、異言で祈るよう全員に促した。歩けない人々に足を動かして立ち上がるよう呼びかけると、何人かが立ち上がった。ある女性は歩行器を捨てて歩き出した。走り回る男性もいた。

私の隣の通路では、立ち上がった男性を人々が取り囲み、彼に触れ、彼に起きた奇跡にあやかろうとしていた。

信者たちには、テントの中が神の恩恵のしるしに満ちているように思えた。11月に予言が実現し、アメリカの未来が確かなものになったとき、ウォルナウとムリロにとって進むべき道は明白だろう。

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