2022年2月24日、ロシアが「特別軍事作戦」を発表しウクライナへの攻撃を開始した。3日で陥落すると言われていた首都キーウだったが、ウクライナ軍が予想を上回る抵抗を見せロシア軍を撃退。そうしたなかで、多くのキーウ市民は戦火を避け国外への避難を余儀なくされた。あれから約2年半。戦争が続くウクライナはどうなっているのか。その現状を知るべく、JNN中東支局長・増尾聡特派員がキーウに入った。

1機あたり7万円 戦争のスタイルを変えた“格安兵器”

増尾特派員
「2年半ウクライナで取材を続けていますけれども、来る度にキーウで生活する市民の人が多く戻ってきていると感じます」

侵攻直後は人々の姿が消えたキーウの街。しかし現在は、故郷ヘ戻る選択をしたキーウ市民も増えている。

増尾特派員
「普通に買い物を楽しむ家族の姿もありますし、街中のアイスクリームショップも営業していて、戦争をしている国だと忘れてしまう。中にはウクライナの地方から来る観光客もいますし、ポーランド、ジョージアなど隣国からここに来る人もいます」

スーパーマーケットや生活用品店、さらに観光客向けの店なども営業しているが、ここは戦争中の国。街を歩けば…

増尾特派員
「街中にはやはり戦争中ということを意識させられる物もあって、『一緒に戦わないか』という、ウクライナ軍の勧誘をしているスポットがあります。軍の関係者の人が立って、希望があれば入隊すると」

日本では見慣れぬ、街角での兵士募集。

身体測定などはあるが、基本は誰でも申し込めるという。さらに…

増尾特派員
「マイダン広場、独立広場です。小さなウクライナの国旗がものすごく増えた。こんな数になってますか…この国旗はウクライナで軍事侵攻が始まってから犠牲になった人を示しています」

街中で目にするのは、戦争で犠牲になった兵士の写真や名前。政府の発表によると、その数は3万人を超えるという(2024年2月25日時点)。

増尾特派員
「一見すると日常生活が営われているんですけれども、やはり、いつ攻撃が来るか分からない。そういう恐怖は常に存在し続けている」

7月には、キーウでは国内最大の小児科施設が爆撃されるなど、常に“恐怖を感じる生活”が続いている。

そんな中、増尾特派員が向かった先には、“最も恐ろしいモノ”の1つが…

増尾特派員
「キーウの郊外にある場所ですけど、今まさに前線で使われ、ウクライナ軍の主力になっているドローンのパーツの一部が作られている」

戦争のスタイルを大きく変えたドローン。実際の攻撃時の映像を見ると…

ロシア兵に忍び寄る爆弾付きドローンは、そのまま爆発。

上空から標的に向かって爆弾を投下、もしくは爆弾を抱えたまま突撃するこの兵器は、これまでの戦争を一変させた。

ロシアの中枢「クレムリン」や、モスクワの高層ビル、そしてロシアの軍艦を大破させたのもドローンによる遠隔攻撃。

ウクライナは100万機の攻撃用ドローンの製造を計画し、対するロシアも2年でドローン生産数が17倍になるなど、両国にとって極めて恐ろしい兵器となっている。

マンションの1室には、15台ほどの3Dプリンターがある。

ここでドローンの発射台、そして爆弾を落とす装置・ドロップが製造されている。

市民
「ドロップを使って爆弾を落とすのさ」

ドローン兵器を作る費用は、1機あたりなんと7万円。簡単に作れるこの装置が、今、多くの人を殺す兵器になっている。

「攻撃されたら逃げられるように」時速120キロで暗闇の中を走り…

そして、増尾特派員はさらに前線へ。現場は、ロシアと国境を接する激戦地。まさにドローン部隊の最前線へ向かう。

車を走らせること30分、ウクライナ兵と合流。

ウクライナ兵
「君たちの安全を守るために約束事がある。まずライトは絶対につけないこと。そしていつでも逃げられるようにシートベルトはしないこと。それから何があっても俺たちの合図があるまで絶対に動かないこと。これは必ず守ってくれ」

ここから先は何が起きるかわからない戦闘地帯。一瞬の判断が生死を分ける。

明るい時間帯での移動はロシア軍のドローン攻撃の標的になるため、暗闇の中を進む。

増尾特派員
「夜の時間を待って出発しました。ウクライナ兵も『かなりの緊張感を持っていこう』と。ものすごいスピードを出していて、少しでも早くこの危険なエリアを抜ける」

ロシア軍に見つかるリスクを減らすため、時速120キロで走り続ける。しかし、出発から5分後…

増尾特派員
「なぜ停まるんですか?」

ウクライナ兵
「ロシア軍のドローンがいる。いなくなるのを待つしかない」

司令部が上空にロシア軍のドローンを確認。一気に緊張が走る。

増尾特派員
「ここに滞在することも極めてリスク。なかなか心が落ち着かない時間が続いています」

まさに命に関わる取材。進むか戻るかは自己判断。しかし…

ウクライナ兵
「外へ出ろ!攻撃されたら逃げられるようにしておくんだ」

外へ出て息を潜める。その場で待つこと50分。

ウクライナ兵
「出発の許可が出たぞ」

増尾特派員
「今から出発ということで許可が出た。すぐに乗り込んで、このタイミングを逃さないように」

ウクライナ兵
「急げ、急げ、急げ、急げ!」

さらに危険地帯を進み、ドローン部隊の元へ。

増尾特派員
「前線に入ってきました。ガードする建物だったり隠れるような木とかも無いので、極めてここはリスクの高いエリア」

そして…

ウクライナ兵
「着いたぞ」

増尾特派員
「ここかな。元々民家だった場所かな。外に兵士がいる」

ウクライナ兵
「急いで降りろ。こっちだ」

増尾特派員
「完全に辺りは暗闇ですが、地下へと入っていきます」

ウクライナ兵
「よく来ましたね」

増尾特派員
「ここがウクライナ軍のドローン部隊が活動する拠点。おそらく民家の地下の貯蔵庫みたいな所でしょうか」

コンクリートで囲まれた10畳ほどの地下のスペースが、ドローンで遠隔攻撃をする彼らの拠点。

増尾特派員
「簡易なマットレスが3つ並べられていて、ここで交代で休むそう。3日間連続ここで寝泊まりをして、1日だけ休んで、また次の準備に入る。これをずっと続けている」

最前線で戦うリアルな兵士の姿。すると…

増尾特派員
「今、聞こえますかね、大きな着弾音。ロシア軍からの攻撃、着弾した音が数10秒に1回、鳴り響いてる。逆を言えば、この拠点もロシア軍のターゲットになっている。考えられない緊張感の中で毎日過ごしている」

爆撃音が鳴り響く中でも、ウクライナ兵らは一切動じることはなかった。

「喜びも悲しみもない」入隊5か月のドローンパイロット

実際に兵器として使われているドローンとはどんなものなのか、見せてもらった。

ウクライナ兵
「ここは軍の装備とドローンを保管している場所です」

増尾特派員
「これが爆弾ですか?」

ウクライナ兵
「そうです。これは対人用の爆弾です」

1機につき飛行距離は10km。爆弾の重さは3kgまで搭載可能という。

ウクライナ兵
「これが小さめの対戦車用。これは大きめの戦車用。こっちはビルや建物を攻撃する高火力爆弾です」

増尾特派員
「用途によって爆弾をドローンにくっつけて飛ばす」

ドローン兵器を扱うのは、わずか5か月前に入隊したコスタさん(30)。彼らの心境とは。

増尾特派員
「軍に入る前は何をしていたんですか?」

コスタさん
「カーナビの部品を作る会社で働いていました。ハルキウに住んでいると日常的にミサイルの音が聞こえます。そして、ロシアが攻め込んで来ると聞いたので、軍隊に入ろうと思いました」

そう、少し前まで彼らは一般人。しかし…

司令部
「応答せよ。今、敵の位置情報を送った」

ウクライナ兵
「ロシア兵は建物にいるんだな?飛ばしていいんだな?」

司令部
「そうだ」

ウクライナ兵
「離陸の準備をしよう」

なんと、ドローン攻撃の指令が。作戦実行するという。

増尾特派員
「今、ドローンが立ち上がりました。ドローンが設置されまして、この後、これが飛んでいき、ロシア軍の方向に戦車や対人に向かって突っ込んでいく」

コスタさん
「離陸するぞ」

増尾特派員
「そして今、パイロットがドローンの飛行を始めました。上空に飛び立ってロシア軍の領地へと向かっていく」

映画の1シーンの様な光景だが、これは紛れもなく現実の戦争。

コスタさん
「敵のドローンパイロットの位置まで飛んでいきます」

ロシア軍の拠点に向け進んでいくドローンだが、その最中でも...

増尾特派員
「今も近くに着弾しましたね。ロシア軍からの攻撃だと思います。近くでものスゴい着弾音がしました」

戦争とはいえ、我々が見ているのは人間が殺し合う瞬間。しかし、恐ろしいほど淡々と進んでいる。

ウクライナ兵
「この少し左にある光っている場所が目標だ」

コスタさん
「確認します。この小屋ですか?」

ウクライナ兵
「そのまま水平を保つんだ」

コスタさん
「いきます」

ウクライナ兵
「いけ」
「達成だ。全て順調だ。敵も確認できたぞ」

コスタさん
「2kgの弾頭があったのでかなりの破壊力です」

敵の拠点を爆撃するこの日の任務は完了した。この現実に、彼らは何を思うのか。

コスタさん
「喜びも悲しみもありません。特別な感情はないんです。ドローンだとほとんどの人が何も気にせず、ターゲットに向かうと思います。私の国を侵略してくる敵を撃つのが私の仕事なので、ただそれだけです」

増尾特派員
「戦争というと、市民が犠牲になったり街が破壊されたり、そういったことをよく目にします。でも、戦争の最前線に行って改めて思うのが、そこで命をかけて戦う兵士一人一人もまた市民であり、家族がいて暮らしがある。それでも国を守るために戦い続けなくてはいけない。当たり前ではありますけれども、その現実、戦争のリアルっていうのを身をもって体感した」

(TBSテレビ『クレイジージャーニー』10月14日放送より)

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