「例えば公園整備計画などをやるときに、 “災害時には仮設住宅にする予定ですか?” と役所に聞いたら「は?」と言われる。そんなこと考えたこともなかったと」
1995年の阪神淡路大震災で被災した経験から、地域防災や被災地支援などに取り組む沖縄在住の防災士・社会福祉士の稲垣暁さん。元日の能登半島地震の後、2度現地に入った。
能登と沖縄は地形などが似ているといい、沖縄のラジオ番組で3週にわたり、災害への備えの必要性を発信した。(奥能登豪雨から1か月【前編】の記事はこちら)
▽稲垣暁さん
「能登半島は沖縄と非常に似た地形だと思う。山がち坂がちで、川が短く、川幅が狭い。堤防があまりない。地震の影響で土手や地盤そのものが下がってしまっている場所も多く見受けられた」
「このことがあって、9月21日の豪雨災害では仮設住宅の200戸以上が浸水してしまった。今回浸水被害が多かったところも、50年に1度の大雨が降ったら浸水すると想定されていた地域にやむを得ず仮設住宅を建てていたところ、大雨が襲った」
被災後に大量に必要となる仮設住宅が、安全で使いやすい土地に建てられるとは限らない。稲垣さんは、能登と土地の条件が似た沖縄だからこそ、災害時の仮設住宅についてどんな課題があるのかを知り、想定しておいてほしいと訴える。
「仮に平坦な土地を求めて田畑を借りて応急的に仮設住宅を作るとしても、上下水道など住宅建設の基礎が近くにないとすぐに建設はできないので、事実上、転用は難しい。特に下水道は本管が近くを通っていなかったら難しい」
「仮に転用しても、過去の大災害を見ても、2年、3年では帰ってこない(仮設住宅暮らしが長期化する)。そうなると、その後田畑として機能することも難しくなる」
また土地を見つけられても、住み慣れた土地から遠くなると、地域の繋がりがなく孤立しがちになる。公共交通の体制がぜい弱であれば、通勤通学・通院・買い物などの行動が難しくなるなど、被災後に暮らしを立て直す仮設住宅について考えておくべきことは多いという。
稲垣さんがこれだけ仮設住宅についての備えを説くのは、阪神淡路大震災の経験、東日本大震災の「被災後」を見届けてきたからだ。
稲垣さんは、地元・神戸を襲った阪神淡路大震災後の行政の対応を克明に把握していた。
「まずは用地確保。神戸市は震災が起こったその日、1月17日から建設用地の選定にかかりました。7か月後の8月11日まで、204日で延べ2万9178戸を建設しました」
「それができたのは、神戸市が所有していた市有地が78%を占めていたから。使える土地があった」
これは1996年の元日の写真。阪神淡路大震災の約1年後だ。公園にプレハブの仮設住宅が立ち並んでいるのは市の公園だ。
「日本で初めて仮設住宅が注目されたのは30年前の阪神淡路大震災です。このときは30万人が避難生活を送り、うち5万人が仮設住宅の生活になった。それまで、こんな事態は想定されていなかった」
「まさか地震が来るとは、ということと、こんなに仮設住宅が必要になるんだということを誰も想像したことなかったんです」
仮設住宅が建った用地をもとの用途別にみると、63%が元々住宅に使えるように開発された土地で、インフラもあったという。このうち1万2000戸ほどが市有地への建設で、多くが市有地に建てることができた。
また、約37%が公園・スポーツ施設の大きな土地を活用して建てられた。
さらに、約3400戸が公団住宅(旧・日本住宅公団)の土地に建った。旧国鉄が持っていた土地を住宅に転用するために置いていた土地も使われた。どれも現在の沖縄にはない “ストック” だ。
それでも、よい条件ばかりではなかったという。
「神戸市だけで3万戸弱を建設したその半分が、六甲山の裏側にあたる郊外に開発中の住宅地で、生活利便性の問題で当選しても引っ越せない人が多かった。また埋め立て地、ポートアイランドなども合計で5000戸ほどあり、浸水被害が想定され、用地として難しいけれども建てざるを得なかった」
ハードとしての住宅の問題だけではない。災害で住み慣れた住宅や土地を失う喪失感は大きい。被災後の心のケアなど、考えておくべきことは多い。
「私は市町村の様々な計画を策定する委員会に入っているけれど、例えば公園整備計画などをやるときに、 “災害時に仮設住宅にする予定ですか?” と聞いたら「はぁ?」と言われる。そんなこと考えたこともなかったと。大規模災害が起こったときに仮設住宅に転用できる土地というのは普段から考えないと、本当に大変なことになる。今からやっておかないといけません」
過去の災害に学び、沖縄ではどれくらい仮設住宅を確保できるのか。あなたの生活圏ではどうだろうか。まずは想像してみてほしい。(話:防災士・社会福祉士 稲垣暁、構成:久田友也)
※本記事は稲垣暁さんが奥能登豪雨をテーマに話したRBC iラジオの情報番組「アップ‼」から構成したものです。(この記事の【前編】を読む)
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