教職員の4分の3が「自腹」を切っている…

本来は学校予算、公費で賄うべきものを、教師が自腹を切って自己負担をしている実態が明らかになっています。
例えば採点用の赤ペンや授業用の教材、部活動の顧問として大会に臨む交通費等々…。

具体的には昨年夏、公立小中学校教職員を対象に、その前年=2022年度に「自腹を切ったことがあるか?」を問う調査をインターネットで行ったところ、1034人が回答。結果として75.8%、実に4人に3人以上が自腹の経験がありました。

この調査を行って、「教師の自腹」という書籍にまとめたメンバーの1人、千葉工業大学准教授の福嶋尚子(ふくしま しょうこ)さんに、この問題に注目したきっかけを伺っています。

千葉工業大学准教授の福嶋尚子さん

千葉工業大学准教授 福嶋尚子さん
「元々は家庭の保護者負担の費用をずっと研究をしてきました。で、そういったことを発信をして色々な方に知っていただくというのをやってきたんですけど、その中で教職員の立場から『自分たちも自己負担しているんだから、保護者負担は当然じゃないか』という意見も出てきて、ああそうなのかという風に、はっと思わされたのが、きっかけです」

福嶋さんは、本来「無償」とされている義務教育の場に於いて、入学準備費や教材の購入費、給食費、部活動や修学旅行の費用等々、保護者の支出が多岐に渡ることを、「隠れ教育費」と名付けて、問題提起をしてきました。

そんな中で「教師の自腹」にも気付いたのです。

“自腹”が“自腹”を呼ぶ実態

先にも挙げましたが、授業の教材から部活動関係まで、自腹は多岐に渡ります。

自治体の財政的な問題で現場で使えるお金が少なかったり、予算を使うための手続きが煩雑だったりするため、ちょっとした金額だったら、仕方ないと考えて自腹を切っているケースが少なくないと思われます。

またより良い教育を子どもたちにしようと、自腹で教材を用意したりといったケースも見られます。そうした気持ちはわかるような感じもしますが、問題は、自腹が自腹を呼ぶことです。

千葉工業大学准教授 福嶋尚子さん
「自腹を切っている主体の先生方の受け止めの分け方として、『積極的自腹』と『消極的自腹』と『強迫的自腹』という3つのカテゴリーに分けられるというふうに、分析をしています」

「積極的自腹」というのは、先に挙げたように半ば自主的に行う自腹なわけですが、こういった教師の方が居ると、同調圧力が生まれて、例えば隣のクラスの担任も、同じように自腹を切らなければならなくなったりします。

これが「消極的自腹」です。

この「消極的自腹」のケースがもっと強まって、その教師が全然納得がいってないのに、自腹を切らざるを得ない状態に追いやられるのが、「強迫的自腹」となるわけです。

今回の調査で、福島さんが大きな衝撃を受けた自腹が、「各家庭の徴収金未納の立替え」です。例えば図工での工作や家庭科の調理実習などで使うものを、保護者が用意しなかったり、費用を払わないままだったりした場合、教師の側が、それを負担してしまうことがままあるというわけです。
また部活関係でも、こうしたケースが見られるようです。

多岐に渡る“自腹”ではありますが、教師の方々が特に不満に思っている“自腹”について、福嶋さんに伺いました。

千葉工業大学准教授 福嶋尚子さん
「修学旅行など学校行事の際に自己負担が生じていることについて、不満を持たれる方はかなりいらっしゃるかなーという風に思います。例えばですけど、先生方自身も子どもたちと一緒にお昼ご飯をたべたりするわけなんですけど、この昼食代っていうのが、先生方の自己負担になっているかどうか、これも実は自治体によってかなり仕組みが異なって…」

修学旅行の場合、下見なども必要なわけですが、それに関する費用は、交通費をはじめ全てが自腹なんてケースもあるようです。有給ではない日曜日に下見に行かされて、その上自腹だったりなど、先生方も大変です。

“教師の自腹”問題の処方箋は…

こんな現状に対して、出来ることを考えなければなりません。
予算の問題はありますが、まずはできるところから「学校財務マネジメント」を行っていくべきと主張するのは、福嶋さんと一緒に、「隠れ教育費」の問題提起を行い、今回の調査にも参加している、公立中学校の事務職員、柳澤靖明(やなぎさわ やすあき)さんです。

公立中学校の事務職員 柳澤靖明さん
「いまお金がこれくらいあります。このお金を執行するために、こういう時に要求を事務室に出して下さいね。それで予算書を事務所が作りますよ。年度途中だとしても予備費を執行したりということもできますからちゃんと窓口として事務室を頼って下さいっていうことを共有する。で、あと自腹を切らないっていう。1人が良いから自腹切っても良いって問題じゃなくって、全体の問題なんだからというベース、土台を作っていくという研修も、やはり必要だというふうに思っています」

教職員と学校財務の担当者である事務職員が協力し合って、例えば「学校財務委員会」を設置して予算執行計画を考えていくなど、各学校が自律的な財務を行えるように、文部科学省などが、きちんとしたガイドラインを作る必要性があると思われます。

一方で、現状に於いては、すべての自腹に対して目くじらを立てるべきではないとも、柳澤さんは言います。

公立中学校の事務職員 柳澤靖明さん
「なくならなくても良い自腹っていうのが、教育に直結しないとか、運動会で緑組の教員担当だから緑に全身しようみたいなものとか、あとは卒業式の袴、一緒に着ようね~とか。そういうところはなくならなくてもいいのかなって」

教師の自腹は「なくせる自腹」「なくすことが難しい自腹」「なくならなくてもよい自腹」の3つに分類でき、まずは「なくせる自腹」を切らないようにすることだと、柳澤さんは提案します。

この問題に興味のある方は、「隠れ教育費」研究室のホームページや「教師の自腹」の書籍を、ご覧ください。

TBSラジオ「人権TODAY」担当:松崎まこと(放送作家/映画活動家)

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