私たちの生活に欠かせない路線バスですが、いま、働き方改革や高齢化で運転手不足が深刻です。そんなバスの世界に飛び込んだ2人の若手運転手に密着し、業界の今を取材しました。
7月にバスを運転できる大型二種免許を取ったばかりの見習い運転手、大前龍仁さん(20)は、主に広島市の郊外と市中心部を結ぶ路線バスを運行する、広島交通の勝木営業所で働いています。
教官とともに練習を重ね、15日、大前さんは最後の教習日をむかえました。合格すれば、翌日から独り立ちします。
■広島交通 バス運転手 大前龍仁さん
「緊張はしますけど、いつも通り運転できたらと思っています」
出発前に欠かせないのがバスの点検です。
■広島交通 バス運転手 大前龍仁さん
「タイヤを叩いてみて、変な音がしないか、空気が無かったりしたら音が違うんですよ。あとネジを叩いてみて音がおかしくないか、4つのタイヤをいつも確認しています」
最後の教習は、実際に客を乗せて勝木営業所と、広島市の中心部にある広島バスセンターを往復します。
バスの運転に必要な大型二種免許の取得年齢の下限は、従来21歳でしたが、おととしから19歳に引き下げられ、高卒採用も活発化してきています。大前さんも、高校を卒業後、広島交通に入社。免許を取るまでは事務員として働いてきました。
■広島交通 バス運転手 大前龍仁さん
「車好きの影響もあって『大きいバスに乗ってみたいな』と思ったのがバスの運転手を目指そうと思ったきっかけですね。教習が始まった瞬間いきなり『乗るよ』と教官に言われてドキドキしていたんですが、いざ運転してみて、だんだん慣れてきたら楽しいなって思いました。教習中にお客さんから、ときどきですけど『頑張ってね』とか『ありがとうございます』とか、笑顔でそういう言葉を言ってもらえるとき、一番やりがいを感じます」
大前さんは無事、最後の教習を終えて車庫に戻ってきました。
■広島交通 運輸部指導人材係 千早哲哉係長
「彼はね、わりと上手です。最初っからもう上手だったんで。注意したこととか、ここは変えた方がいいよというようなところを次の日にちゃんと変えてきて、普通に運転をできるようにしてくれるところは『すごいな』と逆に思ったところがあります」
◆女性の若手ドライバーも活躍 運転手になったきっかけは…?◆
広島交通のグループ会社、広交観光には、大前さんと同じ20代の若手先輩社員がいます。竹本紘子さん(29)です。路線バスを担当後、いまは主にスクールバスの運転手をしています。竹本さんがバスの運転手になったきっかけは、前の仕事を辞めた時にたまたま見つけたポスターでした。
■広交観光 バス運転手 竹本紘子さん
「『大型車の運転を体験してみよう』みたいな体験会のポスターを、たまたまバス乗ってたときに見かけて、次の仕事も探してたし、新しいこと挑戦してみたいなと思って。オートマの普通車免許だけだったんですけど」
異業種からチャレンジした竹本さん。バスの運転手という仕事の魅力は「ひとりで仕事をできる時間が多くある」ことだと話します。ただ、多くの乗客の命を預かる責任もあります。
■広交観光 バス運転手 竹本紘子さん
「体力も使うし、気遣いもすごくいる仕事なので、人が足りなくて仕事が増えれば増えるほど負担にはなってしまいます。毎日疲れもきっちり取れて、気持ちもリセットができて、というので繰り返し仕事ができるのがやっぱり理想的だなと思います」
ことし春、バス運転手の働き方改革で、労働時間の短縮や、退勤から出勤までの休息時間をこれまでの最低8時間から9時間に増やす法改正が行われ、運転手不足に陥る”2024年問題”が起こりました。広島交通では運転手不足のため減便を行いました。
■広島交通 運輸部 長戸忠則部長
「4月1日時点でかなりの便数を減便いたしまして、それでも、やはりダイヤがうまく回っていないので、つい先月、9月26日にも減便をしました。本当に申し訳ないという思いはあります。」
朝の通勤、通学時間帯の便を極力残すため、特に夜間や休日の便数に影響が大きくなっています。
■広島交通 運輸部 長戸忠則部長
「『バスの便を増やして』というお声はいただくことが多いです。我々も十分感じているところなんですが、バスを運転する運転者がいないのが現実の問題だと思っています」
交通政策に詳しい専門家は、バス業界の運転手不足解消には、採用活動の強化以外にも大切なことがあるといいます。
■呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 神田佑亮教授
「乗務員のなり手が不足するというところに目が行きがちなんですけれども、いま働いている人を大切にしていって、働いている方々の満足度を上げるという取り組みを同時にやらなければならないと思うんですね」
広島市とバス会社や、神田教授などの有識者で構成される協議会は、10月、およそ1600人の運転手にアンケートを行い、魅力と課題を見える化してより働きやすい環境を整備しようとしています。
■呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 神田佑亮教授
「広島という街にとってバスがどれだけ大切か、市民の方々ともしっかり共有をしたうえで、民間のビジネスとしてでは無く、道路と同じ公共のインフラと捉えて投資すべきところは投資をしていくべき」
◆最後の教習を終えた大前さん 果たして独り立ちなるか…?◆
運転手の大前龍仁さん。最後の教習を終えて、これまで習った内容を振り返り、決意を新たにします。
■広島交通 運輸部運輸課 石井亮三課長
「大前龍仁くん、あしたからデビューになります。ひとりでの安全運行、しっかりやってもらいたい。よろしくお願いします」
教官からのお墨付きをもらい、翌日からの独り立ちが決定。
ついに迎えた大前さんデビューの17日に、初めてひとりで担当する便は、安佐市民病院と可部地区を結ぶ循環線。電気で走る新型EVバスです。
■広島交通 バス運転手 大前龍仁さん
「教わったことは忘れずに、毎日当たり前のようにできるようにしていきたいと思っています。これから何かあったら、全部ひとりで責任もってやらないといけないので、ひとりになったという自覚を持って運行をしていきたいと思っています」
運転手不足でバスの減便が相次いだ2024年。地域のインフラを今後も守ることができるのか。きょうも広島の街を走る、若手ドライバーの活躍が期待されます。
◆バス運転手不足 2024年問題以外にも理由が…◆
いま課題となっているバス運転手不足には、2024年問題以外に高齢化が進んでいることも背景にあります。
広島県内の路線バス運転手の年齢層の割合をみると、過半数が50歳以上であることがわかります。取材した大前さんや竹本さんのように、30歳以下の運転手は約3%しかいません。
バス運転手の高齢化が進んでいる理由について、呉高専の神田教授に話を伺ったところ、これまで新卒採用が主流ではなかったことが挙げられるということです。これまで高校を卒業して入社しても、バスを運転する免許をとるのに数年かかっていたため、採用に消極的な会社が多数を占めていました。
そのような中、2022年、転機が訪れました。法改正で、バスを運転できる”大型二種免許”の取得年齢の下限が、19歳以下に引き下げられました。そこで、”人手不足”と”高齢化”の両方を解決することのできる、若手の運転手の採用にバス業界は力を入れています。
広島県バス協会は11月に福山市、12月に広島市で「バス運転者就職フェア」を開く予定で、若手だけではなく、第二の人生としてバス運転手になりたいという人にもぜひ訪れて欲しいということです。
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