宇宙空間からはるばる地球に到達し、私たちの身体や地球までも通り抜けてしまう粒子「宇宙線」。
実は見えないけれどシャワーのように降り注いでいることは過去の記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rsk/1127570)でお伝えしましたが、今回はなんと、100均でも買えるものや身近に手に入るもので装置を手づくりして観測してみました。

そもそも宇宙線とは

「宇宙線」は、宇宙空間を飛んでいる放射線などの粒子の総称です。地球にも降りそそいでいますが、多くは大気にブロックされています。

それでも、地上に到達するものもあります。高い山へ登ったり飛行機に乗ったりすると、放射線被曝量は増加します。

宇宙線を観測するためには「霧箱」という仕組みを用います。
【画像①】のような「霧箱」という装置(アルコールのガスを充満させている箱)に「宇宙線」が飛び込むと、その通った跡に雲を生成することがあります。

【画像①】宇宙線と霧箱

山陽学園大学地域マネジメント学部の米田瑞生さんは、身近なもので「霧箱」を作り「宇宙線」の観測に成功しました。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「装置としては、100円均一で売っていたプラスティックのボトル(アルミの蓋つき)とドアの隙間を埋めるためのスポンジテープ、黒画用紙だけ。
消耗品としては、スーパーで冷凍食品を買った時にもらえるドライアイスと家にあった純度の高いアルコールを使いました」

「【画像②】のように、プラスティックボトルの底面の内壁の円周にスポンジテープを貼ります。このスポンジには純度の高いアルコールを染み込ませます。アルミの蓋の内側には、蓋の大きさに合わせて切り取った黒画用紙を貼ります。

ボトルに蓋をして、蓋が下になるように上下逆さまにします。そのままドライアイスの上にボトルを置き、ボトルの中に充満したアルコール蒸気が、底面のアルミの蓋から冷却されるようにします。

しばらくすると、黒画用紙にアルコールの霧が降り始めます。懐中電灯で照らして注意深く見るとこのアルコールの霧の中を、宇宙線や放射線が線状の雲を作る様子が見えるはずです」

【画像②】「霧箱」の作り方

そして、完成したのがこちらの「霧箱」(【画像③】身近なものでつくった「霧箱」)。
(もし、ご家庭で再現する場合、ドライアイスを扱うときは素手で触らないようにじゅうぶん気を付けてくださいね)

【画像③】身近なものでつくった「霧箱」

「宇宙線」が観測できた!

「霧箱」を観察すると、【動画】や【画像④】のように、画面左から右に向けて「霧箱」の中に細い雲が現れたことが分かります。直後に細い雲はくるくると渦巻きました。米田さんは、雲の長さや太さ、直線性で「霧箱」を「何」が通過したのか、種別をある程度判断できるといいます。

【画像④】宇宙線「μ粒子」の通り過ぎた跡に雲!

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「【画像④】は、宇宙線由来の『μ(ミュー)粒子』と考えられます。μ粒子の軌跡に現れる雲は細く長い特徴があります」

【画像⑤】α線の通った跡

「【画像⑤】は、空気中の放射性由来のラドンから放射されるα線(放射線の一種)で、ヘリウムの原子核が飛来したものと考えられます。太く短い雲はα線の軌跡の特徴です」

【画像⑥】β線の通った跡はどこだ?
【画像⑦】β線の通った跡を赤くしました

「【画像⑥】は電子が飛来しているもので、β線、やはり放射線です。β線の軌跡に現れる雲は、【画像⑦】のように細く短く歪な形状を示します。宇宙から来たγ線が何らかの原子からたたき出した電子であることもありますし、環境放射線であるものもあるので、由来ははっきりしません。日常に放射線が存在していることもよくわかります」

「宇宙線」や放射線の通った跡にどうして雲が?

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「霧箱の原理ですが、霧箱はアルコールの蒸気で飽和していて、温度が低いので、本来アルコール蒸気が存在できず、液体になってもおかしくない状態です。

しかし、液体としてアルコールの粒が発達するためには、核となるアルコール分子の集合が必要です。

この飽和状態のアルコール蒸気に宇宙線が入射し、経路上の分子・原子と衝突すると、分子・原子を構成する電子を弾き飛ばし、プラスの電気を帯びます。そうすると、周囲の分子・原子のマイナスに帯びている部分が寄ってきて結合するのです。

そのようにして、アルコール分子が集合した小さな液滴が多数宇宙線の経路上に生成されます。これが、霧箱に発生する雲の正体です。

短く言うと「宇宙線によりアルコール分子の電子が弾き飛ばされイオンが発生します。このイオンが、雲を構成する液滴が発達するための核になります」

「宇宙線」そのものは目に見えませんが、その通り道に生成される雲を「霧箱」で観測することができるのです。
【画像④】の小さな雲は、「霧箱」を「宇宙線」が通り過ぎたという証。
この「宇宙線」、何億光年の彼方からたどり着いたものかもしれません。

「宇宙線」を大がかりに観測しようとするのが「スーパーカミオカンデ」や「ハイパーカミオカンデ」

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「『スーパーカミオカンデ』や『ハイパーカミオカンデ』の前身となった『カミオカンデ』で、ノーベル物理学賞を受賞した故・小柴昌俊さんは、『ニュートリノ』と呼ばれる素粒子からなる『宇宙線』の観測研究で業績をあげました

『ニュートリノ』はなかなか物質と反応せず、(私たちの身体や地球さえ)透過してしまうので、巨大な水のタンク(小柴さんの指導・監督のもと岐阜県の神岡鉱山地下1000mにつくられた観測装置『カミオカンデ』)を設置し、少しでもニュートリノと水分子が衝突できる可能性を高くする工夫をして、その観測に成功しました」

【画像⑦】ニュートリノは水分子と衝突して光を出す

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「『霧箱』で観測できるのは、ニュートリノよりもずっと観測しやすい、主に陽子からなる『宇宙線』です。その「宇宙線」が上層大気の原子と衝突して『μ(ミュー)粒子』といった粒子が多数生成され、その一部が『霧箱』で観測されたのでしょう」

ゴールデンウィーク終盤、「霧箱」で「宇宙線の通り道」を観測し、遠い宇宙に思いを馳せてみてはいかがでしょう。

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